内定取り消し事件に学ぶ、内定・内々定の法的効果:コーセーアールイー事件
2021年01月31日 2022年12月28日
法令順守を心がける健全な経営者にとって、「内定の取り消しのどこに問題があるのか」を正しく理解しておくことは、経営上の欠かせない事柄と言えます。
本記事では、実際に内定取り消しの妥当性が争われた有名裁判の判例を通して、経営者が知っておきたいことを確認してみます。
目次
内定の取り消しとは
「内定」とは、企業と学生との間に労働契約が成立した状態を指します。ただし、「実際に働き始めるのが卒業後であること」と「内定取り消し=労働契約の解約がありうる」留保をつけた上での契約となっています。
留保をつけたとはいえ、契約は契約ですので、取り消しをする・されるには、それなりの事由が必要とされています。
不動産会社から内々定を取り消された就活大学生が損害賠償金を請求した、コーセーアールイー事件
この事案は、不動産会社から採用の内々定を得ていた男子学生が、内定通知書授与予定日の2日前になって突然、会社が一方的に内々定を取り消した行為は違法だとして、会社に対し、115万5000円の損害賠償金の支払いを求めたものです。
この裁判の結果は、当事者双方が正式な労働契約締結を目指す上での信義則違反による不法行為に基づく慰謝料請求を認め、内々定を取り消された就活大学生の主張が通った形になりました。
裁判の詳細はこちらから
https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/08850.html
「労働契約締結過程における信義則」という観点
この裁判で焦点になったのは、「労働契約締結過程における信義則」です。
内々定自体は、裁判の中で、以下のように捉えられていました。
内々定の合意の実体は、内定までの間に新卒者が他の企業に流れることを防止することを目的とする事実上のものであって、直接的かつ確定的な法的効果を伴わないもの
ただし、会社側が、
①内々定取消しの可能性がある旨を学生に伝え、内々定者への対応につき遺漏なきよう期すべきところを実施していなかった
②更に、内定の2日前に通知したこと
問題視されました。
会社との間で確実に労働契約が締結されるであろうとの学生の期待は、法的保護に値する程度に高まっていたという判断になったと言うことが出来、それを裏切った行為は、「信義則」に反したと判断されました。
内々定は、法的効果は伴わない。それでも、誠実に学生とは接するべき
この裁判は、あくまで、「内々定」は法的効果がなく、更に、学生の「内定」を認めた訳ではなく、あくまで慰謝料を容認した結果になります。
その為、今後も、企業が内々定という手段を使い、人材を囲い込むこと自体には問題はありません。ただし、「内々定がどのような概念か」、「結果として、内定に至らない可能性があること」は、誠実に伝える必要があるということになります。
誠実ではない対応は、法的リスクだけでなく、企業の評判に影響を及ぼす可能性も
また、訴訟に発展しなくても、シンプルに、内々定から内定に移行するにあたり、非情なコミュニケーションをした場合は、SNSやクチコミで、企業が「非情・真摯ではない」という評価を受ける可能性があり、新卒採用が難航する可能性が生じます。
優秀な人材の確保のためにも、内定取消等の事態を発生させることはできるだけ避けることが無難です。
予防法務として顧問弁護士を導入すると安心
上記で紹介したような内定取り消しトラブルに限らず、企業が日常的に法的トラブルに遭遇する可能性は少なくありません。そこで顧問弁護士をつけておけば、日頃から気軽に弁護士への相談やアドバイスを受けることができて安心です。しかし、費用面の問題で顧問弁護士をつけるのが難しい会社におすすめしたいのが弁護士保険です。トラブルを未然に防ぐ「予防法務」の観点から、弁護士保険を活用した顧問弁護士の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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