内定取り消し事件に学ぶ、留保解約権の正当性とは(経営者向け)
2021年01月13日 2022年12月05日

2020年、コロナ禍において、大学生や高校生の採用内定が取り消される事例が増え、その数は2019年を大きく上回りました。
法令順守を心がける健全な経営者にとって、「内定の取り消しのどこに問題があるのか」を正しく理解しておくことは、経営上の欠かせない事柄と言えます。
本記事では、実際に内定取り消しの妥当性が争われた裁判の判例を通して、経営者が知っておきたいことを確認してみます。
重要なキーワード:「留保解約権」とは
判例を見ていく前に、重要なキーワードとして、「留保解約権」があります。
留保解約権とは、正社員を本採用する前に一定の試用期間をおいて、この間に適格性を判断し、使用者が適格性なしと判断したときは、試用期間終了後に本採用を拒否(解雇)できるというものです。
内定取り消しに関しては、「留保解約権」が適用されるかどうかが焦点になります。
判例①:内定取り消しが『無効』になった事案
■事案の要旨
大学卒業予定の学生に対して、企業側は当初から、グルーミーな印象を持っており、そのため不適格であると考えていた。しかし、それを打ち消すような材料が出るかも知れないと考え、採用の内定を取り決めた。その後、それを打ち消す材料が出なかったため、留保解約権を基づいて内定を取り消した。
■判決
留保解約権に基づく内定の取り消しは、解約権の濫用にあたるとして無効。
■判決のポイント
内定の取り消しは、内定時には知ることができない、または、知ることが期待できないような事実でなければならない。
そのため、今回のように、当初から知り得ていた事柄を理由に内定を取り消すことは、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的ではなく、社会通念上相当として認められないため、解約権の濫用にあたるとされた。
判例の詳細はこちらから
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52138
判例②:内定取り消しが『有効』になった事案
■事案の要旨
日本電信電話公社にて、社員として採用の内定が取り決められていた者が、反戦青年委員会の指導的地位にあり、大阪市公安条例等違反の現行犯として逮捕され、起訴猶予処分を受ける程度の違法行為を犯したことが判明した。
そのため、日本電信電話公社は、留保解約権に基づいて、その者の内定を取り消した。
■判決
留保解約権に基づく内定の取り消しは有効。
判決のポイント
内定が決まっていた者が、反戦青年委員会の指導的地位で違法行為を犯したことは、内定時に会社側が知り得ることのできない事実である。
そのため、解約権留保の趣旨・目的に照らして、社会通念上相当として認められ、解約権の行使は有効となった。
判例の詳細はこちらから
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=53358
判例から導き出されること
採用の内定の取り消しが「無効」になった判例と「有効」になった判例を見てみましたが、2つの判例に共通して言えることがいくつかありました。
①まず、内定を取り決めた場合、通常は留保解約権が認められるということです。これは正当な理由があれば、企業側から内定を取り消すことができるというものです。
②しかし、たとえ企業側が留保解約権を行使しても、客観的に合理的であり、社会通念上相当として認められるような理由がなければ、解約権が有効であると認められません。
③そのポイントとなるのが、内定取り消しの理由となる事柄が、「企業側にとって内定時に知り得ることができるものであったか否か」となります。
内定時に知り得ることができない事実であれば、内定の取り消しが有効であると認められる可能性があるようです。
経営者が気を付けたいこと
①内定の取り消しも、法律によって保護されていますので、正当な理由がなければ行えないことを認識しておきたいです。
②留保解約権があるからといって、安易に内定の取り消しを行うと、裁判などに発展し、損害賠償の請求を受けたり、企業イメージが失墜することにつながりかねません。
③内定に関するトラブルを避けるためには、内定を決める前に、気になることをできる限り相手に確認しておくことが必要となるでしょう。
いかがでしたでしょうか?費用保険の教科書Bizでは、様々な中小企業・個人事業主の方に役立つ法務情報を弁護士とともに発信しているので、是非他の記事も参考にしてみてください!
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