サイトM&A(ウェブサイト売買)における注意点:判例に学ぶリスクヘッジ
2021年01月31日 2023年05月19日
国内外を問わず、多くの企業が、そして今や個人もが保有、運営するウェブサイト。一般的となった当初の、企業や個人あるいは個人事業主にとっての顔や入口といった位置づけから、今はウェブサイトそのものが収益を作り出すことから、融資の担保とされるなど、資産のひとつとして捉えられるようになってきました。
そのため、企業や個人のウェブサイトそのもの、またはコンテンツの売却や買収、またそれに伴う事業売買も活発になってきており、サイトM&Aと呼ばれています。
ここではウェブサイト売買(以下、サイトM&A)についての基本と法的に気をつけるポイントをまとめました。
オンラインでのサイトM&A
新規のウェブサイト構築は時間もお金もかかりますし、思うように収益が得られない場合もあります。そこで、運用が思い通りに行かず、維持費ばかりがかかるよりはサイトを売却する、あるいは、ある程度軌道に乗っているサイトを買収する、という取引が成り立つのです。
実際にどんなものなのか、まずはオンラインでサイトM&Aを扱っている業者をいくつか挙げてみます。それぞれの業者の特徴をチェックし、比較検討することで、概要がつかめてくるでしょう。
◆TRANBI https://www.tranbi.com/
サイトM&Aマーケットでは国内最大級。サイトのみならず、事業譲渡の方が強い印象で、情報だけでなく企業買収の情報も多く掲載されています。料金体系はサービスにより様々なパターンがありますが、トランビM&Aマッチングサービスならば、M&A成約時に、買い手には成約価額の3%の料金がかかります。
◆サイトレード https://site-trade.jp/
サイトM&Aが注目され始めた2006年という早い時期から、株式会社ゼスタスが事業を手掛けており、2,000件を越すご相談や数百件にも上る仲介の成約を持つ運営サービスです。
◆サイトキャッチャー https://sitecatcher.net/
ファベルカンパニーが運営するサイト売買サービス。売買交渉を自身で直接行う「直接交渉プラン」と仲介担当者に相手との交渉をすべて任せる「サイト売買仲介プラン」の2パターンを用意しているので、都合の良い方を選べるのがポイント。サイト売却にあたっては、24時間以内に専門家が査定を行なってくれる、無料クイック査定も便利。
◆SiteBank http://sitebank.jp/
売買したいサイトの掲載や商談、最終的にサイト売買成約まですべてが完全無料というのがポイント。ウェブサイトのみならず、アプリの売却も行なっています。無料なので、とりあえず登録して。実際に引き合いがあるかどうかチェックするだけでも十分価値があります。
◆サイトマ https://saitoma.com/
サイト売却専門のサービスです。サイトM&Aに関わる契約書作成から移管までトータルで請け負ってくれるため、サイトM&Aについて、初心者であったり、知識が乏しいなど、多少費用はかかkっても、手間がかかることはなるべく専門家に任せたいのであれば、ありがたいサービスです。販売の際に、手数料15パーセントがかかります。
サイトM&Aの落とし穴
一般的になってきたサイトM&Aですが、まだ歴史の浅い分野です。取引する「商材」はウェブサイトであり、買収にあたってはその売上その他の「商品」としての良し悪しをチェックするのは当然のことですが「現物」ではないウェブサイトについての判断は、たとえば、良質の野菜を仕入れて新鮮なうちに売れば間違いはない、といった取引とは違います。
ウェブサイトは運営その他の扱いにより、価値が大きく変わってしまう、生き物のような「商材」であると認識しておく必要があります。
専門性の高い分野を扱うのであれば、サイト運営のみならず、取り扱う分野、業界に詳しい人のアドバイスを受けるなどの工夫も、後々の無用のトラブルや、裁判にかかる時間や費用などによる損失を未然に防ぐことにつながります。
過去の判例をチェック!
ここで実際に起ったトラブルについて、判例を挙げて説明します。
◎平成29年6月東京における判決
A社はB社より婦人用中古衣類の売買を目的とする事業を譲り受けた。しかしA社は、譲渡後にB社が譲渡した事業と同一の事業を行ったために損害を被ったとし、会社法21条3項に基づき、B社に対して上記事業の差し止め、および不法行為としての損害賠償と裁判の費用を求めた事案。
一審では買い手のA社の主張が認められたが、損害賠償部分について不服としたB社が控訴。譲渡した事業に、特定のジャンルのブランドが含まれるかどうかについて双方の理解に齟齬があり、また、譲渡を受けたA社がファッションおよび婦人用中古衣類の取り扱いの知識と経験が乏しかったことも「被害を被ったために、得られるはずが得られなくなってしまった利益」は、売り手のB社が競業の禁止に違反したことだけがその理由ではないとの主張が一部認められ、賠償額に変更は加えられたものの、B社の控訴自体は棄却された。
この例ではトラブルの要因はウェブサイトそのものではなく、事業内容に関わる部分が多く、また、ウェブサイトを買収、運営することが一筋縄ではいかないことが端的に表れた例といえるでしょう。
判例から学ぶリスクヘッジ
前述の例においては、買収に当たり「競業避止義務」について、しっかり確認しておくべきだったことがわかります。これは、サイト譲渡後に買い入れた側の損失を防止するため、売却側が同じ業界でビジネスをすることを禁じたもの。会社法第21条で「譲渡会社の競業の禁止」が定められているので、契約にあたっては詳細は会社法を専門とする弁護士に相談することをおすすめします。
サイトのコンテンツやブログなどといったウェブ資産は容易に真似することができるため、類似サイトを立ち上げられてしまえば、資産価値がグッと下がってしまというリスクが考えられます。
また、ファッションなどはジャンル分けが曖昧で、双方の認識が異なる場合も少なからずあり得ると考え、売買の際には、どのジャンルが含まれるかなど、詳細に規定して契約をすることがトラブルを避けることに繋がります。
気をつけたいポイントは、ほかにもある!
もちろん、ほかにも気をつけたいポイントはいろいろあります。ウェブサイトは運営によっては利益が大きく拡張できる可能性が高い分、リスクも少なくありません。
サイトを買収する場合、その利益などの数字を確認するのは当然ですが、その収益の内訳などにも注目する必要があります。ウェブ資産の価値は流動的なので、利益の源がアフィリエイト等で、かつ1社のものである場合、買収後もその収益が同じように継続するとは言い切れません。収益源が複数であること、あるいは多角化して今後も増やしていける可能性があるかどうかなども見極めなければなりません。
また、数字などのデータは、直近のものだけでなく、最低でも四半期、あるいは半期、場合によって年単位のデータを確認し、平均してどれだけの収益を挙げられるかの資産も重要となってきます。
さらには、これらのデータや運営の管理が「虚偽ではない」かどうかの確認も必要です。当然のことと考えられがちですが、大手の仲介業者を通しての取引であれば、そのデータの信頼性は高くなりますが、そうでない場合、あるいは個人間取引などであれば、データの信頼性を裏付けるだけのエビデンスを求めることが大切です。また、もし売買後に虚偽が発覚した場合、取引の撤回や損害賠償請求をするという契約を締結することも視野に入れておきましょう。
このほかにも、サイト運営にかかるコスト、エラーなどがないか、コピーコンテンツなど著作権法といった法に触れる内容はもちろん、違法でなくとも倫理的に広く一般に受け入れがたい内容などは、企業のイメージや信用を下げることになりかねません。
もうひとつ、当該ウェブサイトそのものだけでなく、取引先などの承諾を得ていることも大切です。
このように、サイトM&Aには、ウェブサイトの管理、運営についての知識とともに、ウェブサイトで扱う案件についての知識や経験、取り扱いなども大きく影響すること、また、法的にクリアしなければならない条項や契約なども関連してきますので、売買において経験豊富な仲介業者を選ぶ、あるいは、さまざまな分野の専門家の意見を仰ぎ、場合によっては弁護士などにも相談することを視野に入れてすすめるよう心がけましょう。
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