軽貨物運送業の初心者が知っておきたいトラブル事例とその回避策
2023年12月10日 2023年12月12日
軽貨物運送業を個人で始めるに当たっては、運送会社や荷主との間で、荷物を預かって配送する旨の契約を結ぶわけですが、一般的には、業務委託という形の契約を交わします。本記事では軽貨物運送を始めるうえで業務委託契約を結ぶ際のポイントを解説していきます。
業務委託契約とは
お客様のもとに荷物を届ける仕事は本来、運送会社等が最後まで責任を持ってやるべきですが、近年通販需要の増加により荷物が多くてとても手が回らないことが多く、そのような場合に自社以外の軽貨物ドライバーと契約し、配送の仕事を任せるために配送業務を社外に委託する契約となります。雇用契約とは異なるため、給料ではなく報酬という形で賃金が支払われ、契約内容や業務内容も社員とは異なりますので、それらは契約内容を確認し話し合うこととなります。
軽貨物配送業によくある3種の業務委託契約
荷物を代わりに届けてもらうに当たっては、運送会社等から軽貨物ドライバーに一定の報酬が支払われます。報酬がどのように支払われるかにより、3つのタイプの契約に分類できます。
成果報酬型の業務委託契約
もっとも多いタイプの契約です。荷物1個当たりの単価を決めておき、配達した個数分の報酬が運送会社等から軽貨物ドライバーに支払われる形になります。
軽貨物ドライバー側からすれば、荷物の配達が多ければ多いほど稼げることになるため、人気のある契約タイプです。ただ、荷物が少ない時は必然的にもらえる報酬も少なくなってしまうため、毎月一定量の荷物を委託してもらえるのかどうか、契約前に確認すべきでしょう。また、経験者に優先して仕事を回すことが多いため、始めたばかりのころはそれほど稼げない可能性があります。
毎月定額型の業務委託契約
運送会社等から軽貨物ドライバーに毎月決まった額の報酬が支払われることを約束する形の契約になります。この契約では、荷物の量が多くても少なくても、基本的に報酬は変わらないため、軽貨物ドライバーとしては安定した収入を得られます。
ただ、運送会社側が損する形で契約を締結することは通常は考えられません。運送会社が扱う荷物の量が大変多く、後述する成果報酬型だと、軽貨物ドライバーに支払う報酬額が多くなってしまう。そこで、報酬を抑えたいという狙いから、毎月定額型に設定している可能性があります。そのため、軽貨物ドライバーとしては、荷物の量が多すぎて、荷物一個当たりの単価を計算したら安すぎる。という状態になることも考えられますので、契約前に、仕事が多すぎて疲弊していると言った口コミがないかよくチェックすべきでしょう。
単発業務型の業務委託契約
1回や1日単位で配送ごとに契約を結んで、軽貨物ドライバーが荷物を届ければ報酬が貰えるというタイプの契約です。臨時に荷物を運ぶ必要が生じた場合や特別な荷物を運ぶような場合に、このような形で契約を結ぶことがあるかもしれませんが、一般的ではありません。一回限りの契約なので、運送会社と軽貨物ドライバーのどちらにとってもリスクは少ないですが、軽貨物ドライバー側からすると継続して仕事がもらえるとは限らない点に注意が必要です。
毎月定額型の場合は労働者に該当する可能性に注意
3つの業務委託契約のタイプで、軽貨物ドライバー側が注意したいのは、「毎月定額型」の契約だった場合です。荷物の量が多い上に、運送会社の指揮命令の下に、直接雇用の労働者と同じような働き方を求められる可能性があります。この場合は、もはや、業務委託ではなく、通常の雇用契約と同じなので、労働基準法が適用されることになります。労働基準法が適用されるということは、軽貨物ドライバーが運送会社に対して、社会保険制度への加入を求めたり、年次有給休暇を求めたり、残業代を請求したりすることができることを意味します。
特に、荷物の量が多すぎて荷物一個当たりの単価が安すぎると感じたのであれば、弁護士に相談して、労働者として認めてもらい、残業代の支払いを求めていくと言った対応が考えられます。
労働者性(労働者に該当するかどうか)の判断基準
業務委託契約という形で働いている人が、実際には、直接雇用の労働者と同じなのではないかという労働基準法の労働者の判断基準については、さまざまな判例があります。トラックのドライバーの場合は、運送会社からの指示が「運送という業務の性質上当然に必要とされる運送物品、運送先及び納入時刻」程度にとどまるのであれば、労働基準法の労働者に当たらないと判断されることが多いですが、次に挙げる項目「従属性」「使用従属性」の度合いで労働者に該当するかどうか判断するものとされています。
1.業務諾否の自由の有無
受けるか受けないかを受注者が決めることができるかどうか。ただし、それらが契約上受けざるを得ないなどの場合は考慮されます。
2.業務遂行における使用者の指示の程度
例えば運送業務において「この荷物をこの時間までにここに届けてください」くらいなら問題ありませんが、そこに「この経路で、この車を使って、何時に出発して…」とあらゆる指定がされ、職務を遂行しているかをGPSで監視されるなど、職務が発注者の管理下で行われているとされた場合従属性があるとみなされます。
3.時間的、場所的拘束性
個人事業主とは基本的に仕事をする場所や時間を選ぶことができます。しかし、それらを指定・管理されることは指揮監督関係にあるとされ従属性が認められる可能性があります。ただし、仕事の工程上や他の職種との関係上どうしてもその必要があるばあいはその限りではありません。
4.労務提供の代替性
受注者本人が他の人に頼んで依頼をこなすことが認められているかどうかです。認められていない場合は社員と同様と考えられる基準となります。
5.報酬の労務対償性
報酬が成果ではなく、作業時間などをベースに考えられている場合。例えば時給換算されていたり、残業代が出るなどの場合は使用従属性を肯定する要素となり得ます。
6.事業者性の有無
著しく高価な仕事に必要な機材、軽貨物運送業であれば車の所有者が発注者側なのか受注者側かで、受注者側が所有していた場合、受注者の事業者性が強くなり、労働者性を弱めます。他にも報酬が社員と比べ著しく高額な場合も同様に労働者性を弱めます。
専属性及びその他の事情
報酬に生活を保証する要素があったり、専属契約のような形で他の受注者が受けられないような形になっている場合、労働者性を補強する一因となります。
直接雇用の労働者とほぼ同じ働き方を強いられている場合は、一度契約先または弁護士に相談しましょう。
軽貨物運送業者が業務委託契約書でチェックしたい項目
軽貨物ドライバーが運送会社などとの間で結ぶ業務委託契約書には、日常で目にしない難しい言葉が並んでいるため、理解せずに契約してしまう方もいるかもしれません。しかし、契約内容を理解せずに締結してしまうと、後でトラブルになりかねません。本項では最低限チェックすべき項目を紹介しておきます。
委託料についてはっきりと記載されているか
報酬となる委託料の金額・締め日・支払日・支払い方法がどのような条件になっているかしっかりと確認しておきましょう。
委託料を改訂できる条項が盛り込まれているか
軽貨物ドライバーは、ガソリン代や自動車税は自分で負担することになります。そのため、委託料の中からガソリン代や自動車税を差し引きことを見越さなければなりませんが、ガソリン代の高騰や増税などがあれば、その分負担が重くなります。その場合は、運送会社と交渉して、委託料の値上げを求めるべきですが、業務委託契約書にその旨の条項が盛り込まれているかどうかチェックしましょう。一般的には、「委託料の改定」という項目が設けられていて、次のような定め方になっています。
委託料は、契約期間中といえども、経済情勢の変動、燃料の高騰、公租公課の変更、その他の事由により不相当となったときは、甲乙協議のうえ改定することができるものとする。
荷物の責任についてしっかりと記載されているか
軽貨物ドライバーが運送会社から荷物を引き継いだ後は、受注者であるドライバーがその荷物について責任を負うのが一般的です。その点は、業務委託契約にも記載されていることが多いでしょう。例えば、次のような定めが設けられています。
発送貨物は、甲(運送会社)が乙(軽貨物ドライバー)に引渡したときから乙の責任とする。本件業務遂行中に、乙の故意または過失により商品に汚損、毀損および紛失などの損害を甲に与えた場合は、乙は、商品価格を限度とし、その損害を賠償する。
このようになにかあった際の責任問題に発展する部分は厳重にチェックするようにしましょう。また、軽貨物ドライバーは万が一に備えて貨物保険や賠償責任保険に加入して、荷物の破損、汚損、紛失などの事故に備えるのが一般的です。しかし、そういった保険ではまかなうことのできない、お客様との間でトラブルや契約書上での発注者との責任の所在の確認などに備えて弁護士保険に入っておくのも有効です。
交通事故や労働災害時の責任の所在が記載されているか
軽貨物ドライバーが配送中に交通事故を起こした場合は、軽貨物ドライバーが一切の責任を負うという形で取り決めがなされることが多いです。
労働災害についても同様で、軽貨物ドライバーの負担で対処しなければなりません。例えば次のような定め方になっています。
本件業務上で発生した交通事故については、乙(軽貨物ドライバー)の責任で処理するものとし、甲(運送会社)はその責任を負わないものとする。本件業務上において、乙が人身上の損害を受けた場合は、乙が一切の解決を図るものとし、甲はその責任を負わないものとする。
そのため、軽貨物ドライバーとしては、自動車保険に加入すべきなのは当然ですが、実際に交通事故に遭遇してしまった場合に、交通事故の相手方との対応を弁護士に依頼できるように、弁護士保険などにも加入しておくべきでしょう。
競業禁止規定が定められていないかどうか
軽貨物ドライバーは、個人事業主ですから、契約相手の運送会社を自由に選ぶことができます。A運送会社からの依頼が少ない場合は、B運送会社からの依頼を受ける。といった具合で、複数の運送会社と契約してもよいわけです。ところが、運送会社と結ぶ業務委託契約書によっては、競業禁止規定が定められていることもあります。例えば次のような規定です。
乙(軽貨物ドライバー)は、本契約期間中、乙又は甲(運送会社)以外の第三者のために、本業務と同一又は類似する業務を行ってはならないものとする。
このような規定が設けられていた場合は、その運送会社との契約に拘束されて、他の運送会社の仕事をすることができなくなるので注意しましょう。このような規定があった場合、報酬が著しく高いなど納得できる材料がない限り、削除してもらえないか交渉してみるのもいいでしょう。
違約金の定めが設けられていないかどうか
業務委託契約書では、中途解約ができる場合の定めが設けられています。ただ、途中で解約されてしまうと、契約当事者のどちらにとっても、予定が狂い、一定の損害が生じます。例えば、軽貨物ドライバーが、いきなり、今日から仕事しないと言い出したら、運送会社としては他のドライバーを探したり、他のドライバーに余分に報酬を支払って仕事をしてもらったりしなければならなくなるわけです。そのような場合に備えて、中途解約した場合は違約金が発生するという定めが設けられていることがあります。例えば、次のような規定です。
(中途解約)
1 甲又は乙は、相手方に対して1か月前までに書面で予告することにより、本契約を中途解約できるものとする。ただし、本契約締結日から6か月が経過するまでは、本項に基づく中途解約はできないものとする。
2 前項に基づく中途解約が行われる場合、当該中途解約を行った当事者は、相手方に対して違約金として●●万円を支払うものとする。
このような定めが設けられている場合は、中途解約すると、条項に規定された違約金の支払いを求められることになるので注意しましょう。もちろん、この違約金の額があまりに高額で不当な場合は、民法90条の公序良俗違反等を主張して支払いを拒否することもできないわけではありません。
ただ、そのためには、弁護士に相談して、弁護士から通知してもらったり、訴訟を提起したりといった対応が必要になります。
そのためできることであれば契約を締結する時点で、このような条項が盛り込まれていないかどうか確認する。また、運送会社の担当者との間で、中途解約した場合に違約金が発生するのかどうか、よく話を聞いておくことが大切です。
契約内容のチェックは弁護士に相談するのがベスト
このように軽貨物運送業を始めるにあたって、契約を結ぶことは避けて通れないことですが、やはり一般の人からすると契約書の内容が本当に問題ないかの判断は難しいです。そういった場合、法律の専門家である弁護士に「リーガルチェック」といって、契約書の内容に問題がないかをチェックしてもらうことができます。
契約書チェックを無料でしてもらえるサービス
しかし、弁護士に相談したことのない方からすると、弁護士探しや費用、相談の仕方など不安なことも多いと思います。そこで当サイトがオススメしているのが弁護士保険です。弁護士保険は月額数千円で弁護士への相談費用や、訴訟に発展した場合の弁護士費用などが補償されるため、気兼ねなく弁護士に相談できるようになります。
弁護士保険に入れば各種弁護士費用が補償される
1.トラブルに発展する前に予防できる
弁護士保険に加入すると、弁護士保険加入者証や弁護士保険加入ステッカーがもらえます。これを提示することで「こちらはいつでも弁護士を使える」という姿勢を相手に伝えることで無断キャンセルの抑止力となります。
2.弁護士への電話相談が無料で出来る
弁護士のへの電話相談が無料で行えるといった付帯サービスが付いてきます。トラブルの概要を話し、そこからどう動くのが最善かを法律の専門家からアドバイスしてもらえます。
3.弁護士費用・裁判費用が補償される
それでも解決できずに訴訟などに発展したとしても、一般的に弁護士を使った時にかかる着手金や訴訟費用は保険で賄われますので高額な出費を恐れる心配がありません。
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