【弁護士監修】少額訴訟のメリット・デメリットとは。費用・必要書類から手続きの流れまでを解説。
2023年06月17日 2023年06月23日
少額訴訟とは
少額訴訟とは60万円以内の金銭の請求を1回の裁判のみで解決を目指す制度で、通常訴訟と比べて費用や時間などを簡略化できる裁判制度です。
この制度は、一般の人々が簡単かつ迅速に、訴訟を起こすことができるようにすることを目的として設けられました。本記事では少額訴訟について、その手順やメリット、費用、そして弁護士を使用する必要性について解説していきます。
少額訴訟の条件と通常訴訟との違い
少額訴訟を行うにはいくつかの条件があります。
- 訴額が60万円以内である。(利息・違約金は含まれない)
- 審理は1回のみである。(控訴の禁止)
- 年に10回までしか利用できない。
- 被告の住所が明確である。
上記を踏まえて、通常訴訟との違いをまとめてみます。
少額訴訟 | 通常訴訟 | |
---|---|---|
訴訟内容の制限 | 金銭支払請求のみ | 多岐にわたる |
訴訟額の制限 | 60万円以内 | 無制限 |
控訴の有無 | なし | あり |
送達 | 直接送達のみ | 直接送達・公示送達 |
判決までの時間 | 即日 | 内容次第で数ヶ月〜数年 |
裁判費用 | 〜約10,000円前後 | 数十万円〜数千万円 |
反訴の可否 | 不可能 | 可能 |
証拠の内容 | すぐに調べられるもののみ | 無制限 |
裁判所の種類 | 簡易裁判所のみ | 簡易・家庭・地方・高等・最高 |
訴訟内容と訴訟額
少額訴訟は金銭支払請求(債権回収など)のみに行うことができ、訴訟額は60万円以内が絶対条件となっています。そのため、60万円を超える額の請求をしたい場合などは通常訴訟となります。
控訴の有無と判決までの時間
少額訴訟の審理は原則1回とされており即日判決が下ります。そのため通常の訴訟と違い、時間も労力もかけずに済みますが、内容に不服があったとしても控訴できません。ただし、判決に不服がある場合「異議申し立て」を行うことができます。
TIPS 異議申し立てとは |
---|
当日に異議申し立てを行った場合、裁判官は判決の正当性を再検討します。また、判決後2週間以内に異議申し立てを行い通常訴訟に移行し、再審することも可能ですが控訴と違い上の裁判所に行くわけではなく再度簡易裁判所にて裁判が行われるのが特徴です。 |
直接送達と公示送達
通常訴訟では被告の住所が不明でも公示送達という方法を使って訴状の送達をすることができますが、少額訴訟は被告への直接送達が必要です。そのため、被告の住所がわからないなどの場合は少額訴訟をすることができません。
TIPS 公示送達とは |
---|
相手方を知ることのできない場合や、住所などがわからない場合、海外に住んでいて交付の証明が出来ない場合に、法的に送達完了したものとする手続きです。 |
裁判費用
裁判費用は通常訴訟と同額ですが訴訟額が上限60万円のため印紙代は最大でも6,000円となります。その他に予納郵券代や交通費などがかかります。対して、通常訴訟は上限がなく訴訟額が100万円ごとに印紙代も1割ずつ高くなっていくのに加え、弁護士費用などもかかるため少額訴訟に比べ多額の金額が必要となります。詳しくは後述の「少額訴訟の費用と必要書類」の項をご覧ください。
反訴の可否
反訴とは訴訟手続を行っている中で被告が原告を訴え返すことです。通常の訴訟では起こり得ることですが、少額訴訟では反訴できません。ただし、判決に不服がある場合前述の通り、「異議申し立て」を行うことができ、裁判官が判決を下し直す場合はあります。
裁判所の種類と裁判員の人数
裁判というと多くの方は法廷の真ん中に被告が立ち、正面に裁判官が複数人、両脇に検察や弁護人、背後には傍聴人という物々しい雰囲気の景色を想像するのではないでしょうか? 少額訴訟の場合は簡易裁判所で行われ、ラウンドテーブル(円卓)を取り囲み原告、被告、裁判官、証人が座り話し合いのような形のため、通常訴訟と比べて比較的軽い雰囲気で行われます。
少額訴訟のメリットとデメリット
時間もお金も手間もかからない
少額訴訟のメリットはなんと言っても、その手軽さにあります。裁判にかかる費用は数万円で済みますし、即日判決のため時間もかかりません。手続きも通常訴訟と比べて簡略化されていますのであらゆる面で負担が少ないのが特徴です。
弁護士を無理に付けなくてもいい
前述しましたが、少額訴訟というのは裁判というよりも話し合い・調停に近い形で行われるため難しい手順や条件などはありません。訴額も少額なため弁護士を付けたら赤字になることも考えられます。そのため、弁護士を付けないで臨む人も少なくないどころかほとんどです。
強制執行が可能となる
原告が勝訴した場合、仮執行宣言が付与されます。これにより、債務者(被告)が弁済に応じなかった場合は財産の差し押さえなど法的な強制執行の申立が可能となりますので、回収の可能性が一気に高まります。
TIPS |
---|
財産の差し押さえは相手の財産状況を把握しておかないと差し押さえができません。そのため、相手の口座状況や不動産の保有などを調べる必要があります。 |
通常訴訟に移行する可能性がある
被告が通常訴訟での審理を希望し申し立てた場合、特別な条件もなく通常訴訟に移行します。そうなってしまいますと、少額訴訟のメリットがなくなる可能性が高いので気をつけましょう。
敗訴した場合に控訴できない
「控訴」がないというのは、勝訴した場合ならメリットですが万が一敗訴した場合デメリットになり得ます。そのため、少額訴訟を行う時は絶対に勝訴できるという確信が重要になってきますので、事前にしっかり弁護士に相談しておくことが大切です。
即日判決のため入念な準備が必要
1回の審理で判決が下るため、確実に勝訴するためには主張・証拠(証人)などしっかりと準備し、相手の反論の内容を想定し対策しておくことが必要となります。そのため、弁護士を付けて裁判に臨む必要はありませんが、事前に弁護士に相談しておくことが重要となります。
少額訴訟に向いているケース
各種売上の債権回収
通信販売などで商品を送ったが代金が振り込まれない、フリーランスのイラストレーターが納品したが報酬が支払われないといった場合の未払金の回収におすすめです。依頼を受けた際のメールや納品書、契約書がある場合は証拠になりますのでしっかりと保管しておきましょう。
敷金返還請求
敷金とはあくまでも貸主に預けているお金であり、本来は返還されるものです。しかし、悪徳な管理会社などは何かと理由を付けて返金してもらえないケースも少なくありません。家賃によっては数十万円になりえますので、仮に原状回復に使ったとしても全額使い切るとはあまり考えられません。少額訴訟することであっさりと返還に応じる業者も少なくないです。敷金の返還を受けることは入居者に約束された権利ですので、毅然とした態度で望みましょう。
知人同士の金銭の貸し借り
親戚や知人などにお金を貸したが返してもらえないなどといった金銭トラブルにも少額訴訟は有効です。正式な借用書があれば確実ですが、銀行振込をした際の控えや「貸して欲しい」というメールやメッセンジャーなど会話のやり取りなども証拠になり得ます。もしも証拠になるか不安な場合は事前に弁護士に相談することをおすすめします。
以上のように比較的少額(60万円以内の金銭のやり取り)で、なおかつ確実に自分が支払ってもらえる確証がある場合に少額訴訟は非常に有効です。
少額訴訟の費用と必要書類
少額訴訟に必要な費用
訴訟手数料(収入印紙代)
訴額(請求する金額) | 手数料 |
---|---|
〜10万円 | 1,000円 |
〜20万円 | 2,000円 |
〜30万円 | 3,000円 |
〜40万円 | 4,000円 |
〜50万円 | 5,000円 |
〜60万円 | 6,000円 |
少額訴訟を申し立てる場合、訴額に応じた手数料を収入印紙で納付する必要があり、その金額は訴額に応じて異なります。
予納郵券代(切手代)
訴状の通達や判決の送付などに必要となる切手を事前に購入して裁判所に提出しておく必要があります。これは管轄の裁判所や被告の人数などにより異なりますが5,000円〜10,000円ほど見ておけば心配ないと思います。また、余分に納付した場合は申立人へと返金されます。
その他費用
裁判自体に必要なお金は上記の2つのみですが、裁判所までの交通費や証拠の印刷代、弁護士への相談・委任費用などは状況に応じてかかる場合があります。
TIPS 裁判費用って相手に請求できる? |
---|
気になる方が多いのが「裁判にかかった費用は相手に請求できるのか?」という疑問です。答えはYESです。ただし、勝訴した場合に限り判決後に別途「訴訟費用額確定の裁判」を起こし直さなければいけません。また、請求できるのはあくまでも裁判所に支払った費用のみで交通費や弁護士費用などを請求することはできません。 |
少額訴訟に必要な書類
訴状
訴訟する際に、訴えを起こす事件名や内容、原告・被告の情報を記載するための書面です。書式が決まってますので、特に難しいことなく誰でも作成可能で、定形用紙が裁判所に設置されてるほか、裁判所のWebサイトからダウンロードすることもできます。これを裁判所、自分、相手(複数人の場合は人数分)用意して提出する必要があります。
証拠書類
契約書がある場合や事前に内容証明を送っているなど、証拠となり得る書類がある場合はそちらも添付して提出します。
身分証明書
申立人が法人の場合は登記事項証明書(登記謄本)、未成年の場合は親権者を証明する戸籍謄本などが必要となる場合があります。
少額訴訟の手続きから判決までの流れ
1.必要書類を管轄裁判所に提出する
前述した必要書類一式を被告の所在地を管轄する簡易裁判所に提出します。
2.裁判所が受付し期日などを決定
裁判所が訴状の内容を確認し受理された場合、裁判所が審理期日を決定し被告に訴状・期日呼出状・証拠書類などを送付します。
3.被告が訴状他を受領・書類送付
裁判所が送付した各種書類を被告が受領し、答弁書・証拠書類を裁判所に提出します。その後、裁判所が内容を確認した後に、原告に被告の答弁書・証拠書類を送付します。
4.裁判の事前準備
原告・被告は相手の訴状や証拠書類をもとに、勝訴するための追加の証拠書類や当日に出廷してもらえる証人の手配など各種準備を行います。
5.裁判・判決
通常訴訟に移行しなかった場合は、2で決まった期日に裁判が行われ原則全ての審理が行われ、即日判決が下ります。ただし、必ず判決まで行かなくとも裁判所が内容を判断し、和解の打診がある場合が多く、両者が和解に合意した場合は和解調書を作成したうえで訴訟終了となります。
TIPS 裁判にかかる時間ってどのくらい? |
---|
裁判の内容によって異なりますが、おおよそ30分〜2時間程度です。基本的に両者の言い分を裁判官が聞き、仲裁するようなイメージであまりゴネると裁判官の心証に影響してくるので長引くことは多くありません。 |
少額訴訟のデメリット
審理が1回だけなので入念な準備が必要
これまで説明した通り、少額訴訟は通常訴訟と違い即日判決が下ってしまい、覆すことができません。そのため、自分の正当性の証明するための証拠書類や証人の準備、裁判時の主張などをしっかりと準備して臨むことが大切です。
通常訴訟に移行する可能性がある
費用と手間を抑えるために少額訴訟をしたにも関わらず、被告が希望したことで通常訴訟に移行した場合、相手方は弁護士を雇ってる可能性が高いため少しでも勝訴の可能性を高めるためには、こちらも弁護士を用意する必要があります。そうなってくると、弁護士費用もかかりますし裁判の期間も大幅に長くなる可能性が高いです。
少額訴訟に安心して臨むために弁護士保険を
ここでおすすめしたいのが弁護士保険です。月額約3,000円から加入することができる保険で、以下のようなメリットがあります。
無料で初期相談が可能
当サイトがおすすめしている弁護士保険にはそれぞれ付帯サービスがついており、弁護士への電話相談を無料で行うことが可能です。そのため、少額訴訟になり得るトラブルにあった際にすぐに相談することができます。
通常訴訟に移行しても安心
弁護士保険に加入していれば、着手金や報酬などの弁護士費用が補償されます。そのため、少額訴訟時に気兼ねなく弁護士を使うことができますし、通常訴訟に移行しても費用の心配が軽減されます。
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