建築・内装業必見。施工後にクライアントがクレーム。争点となるポイントは?
2023年12月04日 2023年12月04日
建築会社や内装会社には、施行後にお客様(発注者)からクレームが入ることが珍しくありません。建物の構造については、解体しない限り、普通のお客様には欠陥があるかどうか分かりませんが、外壁や内装は、日常生活で目に付くだけに細かい指摘を受けてしまうことがあります。そのような場合、どう対処したらよいのでしょうか。
本記事で解説している案件はこちらの漫画でもご覧いただけます。
目次
クレームを入れるお客様(発注者)が求めていることは何か
住宅相談統計年報 2023によると、公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センターに寄せられる電話相談件数は年々増加しており、2022年度は35,772件となっています。
また、新築に関する相談とリフォームに関する相談のいずれも75%が戸建て住宅に関するものになっており、住宅のトラブルの苦情先は次のとおりです。
発注者の大半は「修補」と「損害賠償」を求めている
相談した人は苦情の相手に何をしてほしいのかというと、
新築では、「修補」が53.9%。また、「損害賠償」を合わせると60.7%を占めています。
リフォームでは、「修補」が40.0%。「損害賠償」を合わせると47.4%となっています。
つまり、クレームを入れるお客様の大半は修補を求めていることが分かります。
また、クレームの内容としては下記のようのものが多く見られます
戸建て住宅の主なクレーム | 外壁・基礎のひび割れ、外壁・屋根の雨漏り、設備機器の性能不足 など |
---|---|
共同住宅の主なクレーム | 水回りの欠陥、外壁・内装の剥がれ、内壁・外壁・床のひび割れ など |
こうして見ると、外壁や内装など、普段目に付く部分の不具合がクレームになりやすいことが分かります。
引用元:住宅相談統計年報 2023
建築会社や内装会社がお客様(発注者)と結ぶ請負契約の基本
建築会社や内装会社がお客様から依頼されて、工事をする契約は、「請負契約」と言い、民法に定められている契約の一つで「仕事完成義務」がある点が特徴です(民法632条)。請負人(受注者)である建築会社や内装会社が請負代金を受け取れるのは、仕事を完成させて建物を引き渡した時です。引き渡した建物に不具合があるかどうかに関わらず、請負人が仕事を完成させて引き渡した時点で、注文者(発注者)は、請負人への請負代金支払い義務が生じます。いつまでも、請負代金を支払わない場合は履行遅滞と言い、遅延損害金等の支払い義務が生じることになります。
施工不良が重篤な場合は最悪契約解除も
ただ、建物に不具合があった場合は、注文者としては請負人に対処を求めたいと思うのは当然でしょう。そうなった場合、民法の原則では、
- 履行の追完請求(修補のこと)
- 代金減額請求
- 損害賠償請求
- 契約解除
不具合の内容や程度によりますが上記いずれかの権利行使ができることになっています。これを注文者からの契約不適合責任(瑕疵担保責任とほぼ同じ意味)の追及権と言います。つまり、建物を完成させても契約時と違うものが出来たり、不具合があった場合、最悪契約解除となります。注文者が契約不適合責任を追及できるのは「不具合に気付いた時から5年間」「引渡しを受けた時から10年間」のいずれか早い時期までです。
なお、注文者が不具合に気付いた場合は、1年以内に請負人に対して通知しなければ権利行使ができなくなります(民法637条)。具体的には内容証明郵便等により、不具合の箇所を指摘して、修補等を求めることになります。
上記原則は特約をつけることもできる
上記の規定は民法に定められている原則なので、契約当事者間で異なる内容とすることもできます。例えば、国土交通省が発表している「民間建設工事標準請負契約約款(乙)35条」によると、次のような定めになっています。
- 原則として、契約不適合責任期間を引渡し時から2年間とする
- 建築設備の機器本体、室内の仕上げ・装飾、家具、植栽等の契約不適合は、引渡しの時、発注者が検査して直ちにその履行の追完を請求しなければ、受注者は、その責任を負わない。ただし、当該検査において一般的な注意の下で発見できなかった契約不適合については、引渡しを受けた日から1年が経過する日まで請求等をすることができる。
注文者が契約不適合責任を追及できる期間が民法の原則よりも短く定められています。このように契約当事者間で民法とは異なる内容に変えることができるわけです。
ただし、新築住宅については「住宅品質確保促進法(品確法)」により特例が設けられています。具体的には、住宅の構造耐力上主要な部分等の瑕疵について、請負人は注文者に引き渡した時から10年間、瑕疵担保責任を負わなければならないと定められており、これよりも注文者に不利な特約は無効とされています(品確法94条)。
建築会社や内装会社がお客様(発注者)からクレームを受けた場合に確認すべきポイント
建築会社や内装会社がお客様(発注者)からクレームを受けた場合に、契約面で確認すべき点を紹介します。
仕事が完成しているのかどうか
前項でも触れたように請負人が注文者との間で結ぶ請負契約には仕事完成義務がありますが、仕事を完成させたのであれば、建物に不具合があるかどうかに関わらず、請負人は請負代金を請求できます。そのため、仕事が完成しているのかどうかが重要なポイントになります。
仕事が完成しているのに、注文者がクレームを入れるばかりで請負代金を支払わないというのは、法的には間違った行動になります。そのため、請負人としては、まずは請負代金を支払うように求めることができるわけです。逆に仕事を完成させていないのであれば、請負人は請負代金を受け取る権利がまだないので、まずは、仕事を完成させる必要があります。
新築ならば、注文者に引き渡した時点で、請負人は仕事を完成させたことになるのが一般的なので、仕事が完成しているのかどうかが争点になることはほとんどありません。一方、リフォームの場合は、請負人としては仕事を終えたという認識でも、不具合があると注文者側は「仕事が終わっていない」と主張して、請負代金自体の支払いを拒否してくることも考えられます。このようなトラブルを避けるためには、請負契約を締結する際に、どこまで工事するのかを明確に示しておくことが大切になります。
契約不適合責任を追及できる期間
上記で紹介した通り、注文者が契約不適合責任を追及できるのは、民法の原則では引渡し時から10年間までです。民間建設工事標準請負契約約款(乙)なら2年間に短縮されています。これらの期間を経過した後で、注文者からクレームが入ったとしても請負人は対応する必要がありません。
住宅相談統計年報 2023によると、不具合発生時の築後年数は次のようになっています。
※住宅相談統計年報 2023の26ページより引用
上記データによると1年未満のうちに不具合に気付いてクレームが入る割合が3割を占めています。また、10年未満の時点の数字も高くなっているのは、品確法の瑕疵担保責任の期間が10年となっていることから、10年をめどに確認するお客様もいるのでしょう。もっとも、品確法で対処が求められるのは、「住宅の構造耐力上主要な部分等の瑕疵」に限られますので下記の図のような内装のはがれなどは、品確法による対処は求められていません。
※国土交通省住宅の品質確保の促進等に関する法律の概要より引用
契約不適合責任を追及できる期間は、請負契約の際に明確に定めておきましょう。明確に定めなかった場合は、民法の原則通り、10年間、契約不適合責任を負ってしまうので請負人としては不利になります。契約不適合責任を追及できる期間を経過した後で、クレームが入っても、契約不適合責任として対処する必要はありませんので、新たに修理のための請負契約を締結して、工事を行い請負代金も頂けることになります。
契約不適合責任期間内のクレームだった場合のチェックポイント
契約不適合責任を追及できる期間内に、お客様が不具合を発見して、クレームを入れてきた場合は請負業者は修補に応じる必要があります。その際にポイントとなるのは次の点です。
契約不適合(瑕疵)と言えるのか契約内容を確認
契約不適合とは、契約時に約束した品質よりも劣っている場合を意味します。例えば、フローリング工事で、B級品のフローリング材で仕上げるという契約を結んでいたとしましょう。B級品のフローリング材は、節が目立ったり木肌が荒かったりすることもあります。仕上げた後で、お客様がその点にクレームを入れたとしても、最初からB級品のフローリング材で仕上げるという契約になっていたのであれば、契約不適合(瑕疵)とは言えません。それに対して、A級品のフローリング材で仕上げるという契約だったのに、B級品のフローリング材で仕上げた場合は、契約不適合(瑕疵)になります。
このように契約する際にどの程度の品質を約束したのかにより、契約不適合(瑕疵)に当たるかどうかが異なるということです。契約不適合(瑕疵)に当たらないのであればもちろん、修補には応じるべきではありません。どうしても直してほしいと言われたなら別途請負契約を締結したうえで追加の工事をする形になります。
修補に過分の費用を要するものではないか
民間建設工事標準請負契約約款(乙)を用いていた場合は23条に次の条項があります。
発注者は、引き渡された工事目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないもの(以下「契約不適合」という。)であるときは、受注者に対し、書面をもって、目的物の修補又は代替物の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、その履行の追完に過分の費用を要するときは、発注者は履行の追完を請求することができない。
注目したいのは、色が付いている部分です。つまり、常識的に考えて、修補するのに多額の費用がかかる場合は、お客様は修補を求めることはできないということです。この場合は、履行の追完が不能ということになり、代金減額や損害賠償などの金銭的な解決を図ることになります。弁護士に相談し交渉を頼むべき事案になるでしょう。
発注者からクレームを受けた場合の初期対応
お客様からクレームを受けた場合は、まず、話を聞くことが大切です。お客様の話を途中で遮って言い訳したり、うちには責任がないという態度をとったりするのは最悪の対応で、お客様をますます激高させるだけです。お客様に言いたいことを吐き出させてから、事実を冷静に確認して、謝罪すべき点はすぐに謝罪し、対応策を考えるようにしましょう。住宅相談統計年報で見たように大半のお客様は、修補を求めています。誠実に対応して、不具合を修理すれば、クレームは収まるのが一般的です。しかし、中には、理不尽な要求を突き付けるモンスタークレーマーもいますから、クレームに対してどこまで対応すべきなのかの線引きも必要です。
発注者からの度を過ぎたクレームやモンスタークレーマーには弁護士に対応を求めよう
施行後にお客様からクレームを受けた場合の法律的な考え方と対処法を紹介しました。しかし、お客様に対して上記のような説明をしたうえで納得してもらうことはなかなか難しいと思います。お客様との関係は事実上対等ではないため、契約不適合(瑕疵)として対処する必要はないのに、お客様の度を超えた要求に応じざるを得ないこともあるのではないでしょうか。
このような場合は、弁護士に相談し、弁護士にお客様との対応を任せることも一つの解決策になります。弁護士が対応すれば、お客様と対等の立場で話し合うことができますし、上記のような説明をしたうえで、正当ではない要求に対しては毅然とした対応を取ることができます。
弁護士保険でトラブルに備える
事業を行っていくうえで様々な法的トラブルに巻き込まれる可能性があり、ただ「これだけのために弁護士に相談していいのか」「弁護士に相談するには費用が心配」「どこに相談したらいいかわからない」と、弁護士を利用するハードルが高いと考えている方も多いのでないでしょうか? そこでおすすめなのが弁護士保険です。
弁護士保険に入れば弁護士費用が補償される
しかし、弁護士に相談したことのない方からすると、弁護士探しや費用、相談の仕方など不安なことも多いと思います。そこで当サイトがオススメしているのが弁護士保険です。弁護士保険は月額数千円で弁護士への相談費用や、訴訟に発展した場合の弁護士費用などが補償されるため、気兼ねなく弁護士に相談できるようになります。
弁護士保険に入るメリット
1.トラブルに発展する前に予防できる
弁護士保険に加入すると、弁護士保険加入者証や弁護士保険加入ステッカーがもらえます。これを提示することで「こちらはいつでも弁護士を使える」という姿勢を相手に伝えることで無断キャンセルの抑止力となります。
2.弁護士への電話相談が無料で出来る
弁護士のへの電話相談が無料で行えるといった付帯サービスが付いてきます。トラブルの概要を話し、そこからどう動くのが最善かを法律の専門家からアドバイスしてもらえます。
3.弁護士費用・裁判費用が補償される
それでも解決できずに訴訟などに発展したとしても、一般的に弁護士を使った時にかかる着手金や訴訟費用は保険で賄われますので高額な出費を恐れる心配がありません。
他にも多くのメリットがありますので詳しく知りたい方は以下のリンクをご覧ください。
また、今回のトラブル事例の弁護士保険の活用法は以下から漫画でもお読みいただけます。
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