事業承継を失敗しないために気を付けたい3つのポイント
2021年03月15日 2023年01月24日

目次
少子高齢化社会が叫ばれる日本において、事業を受け渡す「事業承継」を行う経営者が増えてきています。新規事業を行うよりも、新たなビジネスに取り組みやすい、資産やノウハウを吸収しやすいといったメリットも多くありますが、トラブル等に発展しないためにも理解しておきたいポイントがいくつかあります。この記事では、事業承継を行う際に確認しておきたい内容を実際の判例を元にご紹介。3つのポイントに分けて説明していきます。
そもそも事業承継とは何か?引き継がれる主な3つの資産
事業承継とは、現在ある事業を経営している経営者や会社が他の人に引き継がれることを指します。特に、中小企業で多く見られる事象です。これは、経営と所有が分かれている大企業とは異なり、中小企業は経営者のトップが非常に大きな権限を持ちながら会社を運営している事が多いから。いわゆる中小の一族企業などがこれにあたります。経営者のトップが高齢になった際に、これまでどおり経営に参加できなくなってしまっては会社は衰退していく一方。これを避けるために、いわゆる後継者を探す形で事業承継が行われるのです。
一般的な事業承継に際しては、大きく分けて「経営・資産・知的資産」の3つが後継者に引き継がれます。「経営承継」は、会社の経営権を引き継ぐこと。経営権に加えて、会社に努めている従業員などの人材なども引き継ぐことになります。一方「資産承継」は、事業継続のために必要な各種資産を引き継ぐこと。主に株式の引き継ぎがメインになっています。トップが株式保有比率50%以下の場合、議決権を有さなくなってしまい後の経営に響いてしまうことも考えられるのです。その他、土地等の事業継続に必要な事業用資産も引き継がれます。また「知的資産承継」は、主に目に見えない経営資源の引き継ぎ。会社が保有する特許や技術力の他、ブランドや組織がこれにあたります。
事業承継の際にトラブルにならないために!気をつけたい3つのポイント
少子高齢化が問題となっている現在、事業承継の問題は非常に重要な社会的な問題となっています。しかしながら、問題に直面している日本企業の内、後継者が見つかっている企業は全体のわずか1/3程度。実に2/3の企業は事業承継が見込めない深刻な状態なのです。今後この状況を改善していくためにも、積極的な事業承継を進めて必要があるでしょう。そんな中、後のトラブルに繋がらないような手続きを行うことは非常に重要。以下では、実際の判例から考える事業承継の際に気をつけたいポイントを説明します。
1.会社の負の労働条件も継承してしまう可能性がある
会社を引き継ぐ際は、良いものばかりに目を向けずリスクに関しても少なからず考えるべき。実は、前経営者が行っていた際の「負の遺産」とも言える資産を引き継ぐことになる可能性もあるのです。例えば、残業代の支払いについての判例。
父が経営していたA社を引き継いだXさん。会社を承継した後に発覚したのが、従業員への残業代未払い。経営権が移った後に従業員から「残業代が全く払われていない。払わなければ退職して別会社に移る」という旨の発言があり、全額を支払うことになることになりました。また、A社というラーメン店を運営していた代表Yさんへの判例も同様。A社解散後も同じ屋号でラーメン店を営んでいるYさんに対して、A社の元従業員Zから「時間外賃金の未払いと支払い」を求めて起こされた裁判です。この裁判では、解散会社AとYさんとの間に雇用関係を含む事業譲渡があったこと、解散会社AとYとの間の実質的同一性が認められたことなどから、元従業員Zへの支払いが命じられました。
これらの判例からわかるように、事業承継の際には、過去の労働条件も併せて継承になる可能性があります。事業承継の際は、残業代未払いの他様々な潜在的な債務がないかどうかに注意しましょう。
2.契約書をしっかり成立させておかないと、契約書に記載がなかったことで揉めてしまう
事業承継の際は、契約書に関しても入念なチェックが必要になります。以下の判例は、有料老人ホーム「Y」を運営しているX社と、その会社の発行済み株式を全て保有し、代表取締役を努めていたAさんの裁判です。Aさんは、X社に関連会社も含めた全ての株式と共に譲渡することになっていました。しかし、X社からの減額要請を受けたことから、有料老人ホーム「Y」についてのみ事業移転の対象から除外し、X社の事業から分離してBに事業譲渡することになったのです。これに対しAさん及びBは、X社は事業利益及び介護保険料収入を支払うことが黙示の合意で成立したと主張し裁判を起こしました。しかしこれらは、契約書の中にしっかりと記載されていない内容。事業承継に際しての契約はすべて紹介者を通じて行われていた。債権債務に該当しない資産や、特定の期間に発生した損益を承継をしたり清算をしたりすることについては規定がなかったため、Aさんの請求は棄却されることになりました。同判例では、契約書の事項にない争点で揉めてしまっていることが分かります。こういったトラブルを避けるためにも、事業承継の際は弁護士など他の第三者を入れるなどをして、契約書は正確に理解して作成する必要があると言えるでしょう
3.競業禁止義務があることを忘れて、同様の事業を実施してしまう
また、事業承継した後に新しい事業を始める際にも注意が必要です。以下は、A社が洗剤や洗濯活性剤の販売事業をB社に譲渡したにも関わらず、A社がほぼ同一のブランドを使用して同様の事業を行っていることに対してB社が起こした裁判です。B社は事業譲渡を受けた後に自社の商品として「〇〇」というブランドの洗剤を発売していましたが、事業譲渡から6年が経過した後にA社は新しく「〇〇」というブランド名を用いた商品を発売するようになったのです。判決では、これが不正競争行為にあたるとしてA社に対して「〇〇」の文言を含む営業表示を掲載、販売してはならないという命令の他損害賠償請求金額として約800万円の支払いが命じられました。
この判例からわかるように、競業禁止義務に違反してしまうと新しく作成した事業が停止状態になるリスクがあります。事業承継をした後に、これまでの経験から新しい事業を再開させたりしてしまうと不正競争行為に当たる可能性もでてきますので、新規事業を始める際は弁護士などに相談のもと着手するべきだと言えるでしょう。
判例をもとに、事業承継の際には弁護士相談のもとで契約をすすめよう

上記3つの判例から分かるように、事業承継は「する側」「される側」両者ともに契約に関して慎重に進める必要があります。引き継ぐ資産はプラスのものばかりではなく、残業代などの未払金にまで及ぶ可能性があります。こういったトラブルを防ぐためにも、しっかりとした契約書を作成した上で契約を締結させることが非常に重要。契約書に書かれていない内容で揉めることがないように、弁護士に相談のもと両者が納得する契約書を作成の上で事業承継をすすめるようにしてみてください。
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