債権回収には時効がある?経営者が知っておきたい債権回収の基礎知識
2021年01月21日 2023年05月10日
皆さんは「債権」や「債権回収」について意識したことはあるでしょうか。「債権」と聞くとかしこまった法律用語に聞こえるかもしれませんが、普段行っている商取引において発生している身近な権利です。また、この債権には時効があり、債権回収にあたって大きな問題となります。円滑な取引のため、債権や債権回収について知識を深めるのは大切な事です。
今回はそんな「債権」について、おもに債権回収の時効に関して詳しく見ていきましょう。
「債権」とは何か
債権とは、特定の人に対し、特定の行為や給付を請求できる権利のことです。特定の行為や給付とは、金銭の支払いを受けたり、物を受け取ったり、労力の提供を求めたりすることなどが該当します。債権を持つ権利者を、債権者と呼びます。反対に、それら特定の行為や給付を行わなくてはいけない義務を債務といい、債務を負っている者は債務者と呼びます。
たとえば商品を購入した場合、購入した側は商品の引き渡しを請求できる債権者であると同時に、代金の支払いを行わなくてはならない債務者でもあるわけです。こうした契約を「双務契約」と呼びます。
一方、金銭の貸借などにおいては、金銭を返してもらえる債権者と、返す必要のある債務者の関係は一方的です。こうした契約は「片務契約」といいます。
「債権回収」とは、自身の保持している債権に基づき、特定の行為や給付の履行を債務者に要求することを指します。
債権回収には、時効が存在する
債権回収にあたっては、民法に基づき消滅時効が設定されています。一定期間債権を行使しないと、時効が適用されてしまい、債権回収が出来ない事態に陥ります。以下、詳しく見ていきましょう。
時効制度は、①権利の上に眠る者は保護しない②取引の安定性の確保③証拠の散逸などに対する対応、の3つの意味があるものとして説明されます。特に近年では、②取引の安定性の確保に重点が置かれる考え方が一般的です。
具体的な時効の期間については、民法166条において、債権者が
- 権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき
- 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき
において、債権が消滅すると定められています。
①の「権利を行使することができると知った時」のことを、消滅時効の「主観的起算点」と呼びます。
契約においては、通常、債権者は権利が発生した時点で「自分は権利を行使することができる」と分かっているため、契約上の債権は、5年で時効にかかるのがほとんどであると考えられます。
商取引においては、時効は5年、と覚えておくのがよいでしょう。
一方、②の「権利を行使することができる時」は、消滅時効の「客観的起算点」といいます。客観的起算点に基づくと、権利者が権利を行使できることを知らなくても、時効期間が進行します。
商取引等の契約による債権と異なり、契約とは関係ない債権、例えば事務管理や不当利得によって生じる債権では、主観的起算点と客観的起算点にずれが生じることが多いと考えられます。
客観的起算点における「権利を行使することができる時」とは、権利の行使に法律上の障害がない状態を指す、と考えられています。
主観的起算点と客観的起算点がずれるケースとしては、例えば過払金の返還請求において、まだお金を借りたいと思い取引を続けている最中には、過払金の返還請求が行えることを知っていたとしても、定期的にお金を借りている中で、なかなか過払金返還請求を行うことはできません。こうした場合は、取引が終わってから過払金返還請求権の消滅時効が進行を始める、というのが判例の考え方です。このケースでは、主観的起算点が先に発生し、客観的起算点(取引が終了し、過払金返還請求が行えるようになる時)が後になっています。
債権回収の職業別の時効(参考)
現在の民法は、2017年に改正が行われ、特に本記事で解説している債権の消滅時効について、大きな改正が行われました。改正前の民法では、職業ごとに短期の消滅時効が定められていました。
しかし、適用される範囲が分かりにくい上に、なぜその職業だけ時効が短いのか、疑問に思われるものが少なくありませんでした。
例えば、弁護士の職務に関する債権の消滅時効期間は2年でしたが(改正前民法172条1項)、隣接する職種である公認会計士、税理士、司法書士などには当てはまるのかどうか不透明でした。
そこで、旧民法における職業別の時効は削除され、消滅時効期間は単純化・統一化が図られました。
なお、参考として、短期の消滅時効が定められていた職業は以下の通りです。
【債権の消滅時効:3年】
・医師、助産師又は薬剤師の診療等(170条1項)
・工事の設計、施工又は監理(170条2項)
- 弁護士等の受取書類(171条)
【債権の消滅時効:2年】
・弁護士等の職務(172条)
・生産者、卸売商人又は小売商人の代金(173条1号)
・製作物等(173条2号)
- 学芸又は技能教育の代価(173条3号)
【債権の消滅時効:1年】
・演芸等の報酬(174条2号)
・運送賃(175条3号)
・旅館、料理店、飲食店等(174条4号)
- 動産の損料(174条5号)※損料とは、レンタル料のことです。
時効の完成猶予とは
先に述べた民法改正時に、債権の消滅時効の進行を止めたり、リセットしたりする制度のしくみも変更されました。改正前の民法では、「時効の中断」と定められていたものが、「時効の完成猶予」に改正されたのです。
債権に基づく訴訟を例に考えてみましょう。
訴訟を提起してから、判決が確定する間は、その期間時効が進まないため、完成が猶予されていると言えます。そして、判決が確定すると、そこからまた新たな時効が進行します。これを、改正前民法では「時効の中断」と呼んでいました。
しかしながら、中断と一言に言っても、上記の状況においては、訴訟提起中の「時効の完成猶予」の効果と、判決確定時点の「時効の更新」の効果がそれぞれあり、わかりにくいものでした。
改正後民法では、完成猶予の効果を端的に表す規定になりました。時効の進行がストップする、つまり時効の完成が猶予されている状況と理解すればいいわけです。
また、完成猶予の事由が終了した場合においても、一定期間の猶予を設けています。消滅時効が完成する3カ月前に、債権者が民事訴訟を提起した例で考えてみましょう。債権者が、民事訴訟を提起してから6カ月経過後に訴訟を取り下げた場合には、 「時効の完成猶予の事由」が終了したことになるため、提訴から起算して3カ月後に消滅時効が完成することになります。そこで改正後民法147条1項では、「確定判決又は確定判決と 同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する」までの間は時効の完成は猶予される、と定めています。つまり、訴訟を取り下げてから6カ月を経過するまでは、消滅時効の完成は猶予されることになります。
さらに、改正で「協議を行う旨の合意による時効の完成猶予」が新たに設けられました。先に述べたように、完成猶予の事由の代表的なものには裁判上の請求がありますが、時効が迫ってきた場合は、訴訟を提起しないと時効が完成してしまいます。そうなると、もし訴訟に頼らずに当事者間で話し合いにより解決を試みているケースでも、時効完成をさまたげるために訴訟を提起せざるを得なくなり、当事者双方にとって望ましい状態とは言えません。
そこで、双方の書面による合意により、時効の完成を猶予する制度が設けられました。合意があってから1年間(合意で定めた期間が1年間より短い場合は、その期間)は、時効の完成が猶予されることになります。再度書面による合意がされれば、再び時効の完成が猶予されます。ただし、猶予の期間には制限があり、時効の完成が猶予されなかったとした場合に時効が完成すべき時から、通じて5年を超えることはできません。
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