アルコールハラスメント(アルハラ)の定義と企業が訴えられないために行うべき対策
2023年06月09日 2023年06月12日
アルコールハラスメント(アルハラ)は、職場における深刻な問題です。この記事では、アルハラの定義と影響、受けやすい人と起こしやすい人の特徴、そして企業が取るべき対策について法律的な視点も絡めつつ、アルハラを理解し防止するための情報を提供します。
目次
アルコールハラスメント(アルハラ)とは?
アルハラとは、アルコール関連の状況や行動によって他人を不快にさせる、または精神的・身体的なダメージを与える行為を指します。適量を超えたアルコール摂取は急性アルコール中毒を引き起こし、命を奪う可能性もあります。アルハラの特定非営利活動法人ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)によると、アルハラを以下の5項目で定義しています。
1.飲酒の強要
上下関係や同僚・部の伝統・集団によるはやしたて・罰ゲームなどといった形で心理的な圧力をかけ、飲まざるをえない状況に追い込むこと。
2.イッキ飲ませ
場を盛り上げるために、イッキ飲みや早飲み競争といった一気に大量のアルコールを飲むことを強制する行為。
3.意図的な酔いつぶし
酔いつぶすことを意図した飲み会は、傷害行為にもあたる。過度に飲酒した際に一時的に休むことができる「つぶれ部屋」が存在する場合があるが、過度な飲酒を助長するとして問題視されている。
4.飲めない人への配慮を欠くこと
飲酒が苦手な人、健康上の理由で飲めない人、宗教上の理由で飲酒を避ける人などを無視して飲酒をすすめたり、宴会に酒類以外の飲み物を用意しない、飲めないことをからかったり侮辱する、などの行為。
5.酔ったうえでの迷惑行為
酔ってからむこと、悪ふざけ、暴言・暴力、セクハラ、パワハラ、その他のひんしゅく行為。
TIPS 飲まないと損する雰囲気にするのもアルハラ? |
---|
アルハラは、単に飲酒を強制する行為に注目してしまいますが、飲酒しないと損をするという暗黙の圧力もアルハラとして認識されます。例えば、飲み会が重要な情報共有や昇進の機会になったり、職場での成果やキャリアに影響を及ぼしたりする場合は、明確にアルハラと言えるでしょう。 |
アルコールハラスメント(アルハラ)が与える働く人や企業への影響
働く人への影響
- 健康問題
- ストレスと不安
強制的な飲酒は肝臓や胃腸などの深刻な健康問題を引き起こす問題だけでなく、強制されるストレスは、うつ病や不安障害を引き起こす可能性があります。
会社全体への影響
- 生産性の低下
- 離職率の増加
- 企業の評判の悪化
従業員の健康問題やストレスが増えることで、生産性の低下や離職率の増加という形で損失に繋がります。特に近年では、若い世代の労働者たちはワークライフバランスを重視する傾向があり、アルハラが容認されるような企業は仕事に対するモチベージョンの低下や離職率の増加に繋がるでしょう。また、消費者は企業の倫理的な振る舞いを重視するようになってきており、アルハラ問題が表面化すると消費者の信頼を失い、結果的に売上げや業績に影響を及ぼす可能性があります。
アルコールハラスメント(アルハラ)を起こしやすい人の特徴
以下のような特徴を持つ人々がアルハラを起こしやすい人です。多くの人は、自分がアルハラを起こしているとは認識していない場合が多いです。
- お酒をコミュニケーションのひとつととらえている
- 昔ながらの文化を大切にしている
- お酒の席の言動は無礼講という認識がある
- 部下が上司の言うことを聞くのは当たり前だと思っている
- お酒を飲むと記憶がなくなる
- ストレスがたまっている
お酒をコミュニケーションのひとつと捉えている
飲酒を交流の一部、あるいは社交のための必須の要素と考えている人。従業員同士のコミュニケーションを深める手段として飲み会を活用することは良いですが、飲酒を強制する文化が根付いてしまうと、アルコールを好まない従業員のコミュニケーションの機会の欠如やキャリアの進展について不利になるようなことが起きる可能性があります。
昔ながらの文化を大切にしている
「一緒に飲むことで絆を深める」という古い概念を強調する人。例えば、毎週金曜日の夜に全員参加の飲み会を開催する伝統が続いていたり仕事後の飲み会が習慣化している場合、それを拒むことは難しく、アルハラを生む土壌が作られます。
お酒の席の言動は無礼講という認識がある
酔っ払うと、人は通常は言わないような言動を取ることがあります。一部の人々は、飲み会ではそうした行動が許されると考えており、「酔っ払ったから」という理由で不適切な発言を繰り返す傾向にあります。
部下が上司の言うことを聞くのは当たり前だと思っている
部下が上司の指示に従うことを当然と考えている人は、飲み会での飲酒も同じように考え、部下が断ることを許さない傾向があります。
お酒を飲むと記憶がなくなる
アルコールが原因で記憶が曖昧になる人々は、自分の行動をコントロールできず、適切な判断ができなくなる可能性があります。
ストレスがたまっている
仕事や私生活の事情でストレスが高まると、人は判断力を失い、適切な行動を取る能力が低下し、アルコールをストレス解消の手段として使用し、過度な飲酒を推奨し、アルハラを引き起こす可能性があります。
アルコールハラスメント(アルハラ)を受けやすい人
- 気が弱い、空気を異常に読んでしまう
- お酒をすすめられると断れない
- 上司の言うことには従うべきだと考えている
- いじられ役
- 若手は飲まないといけないと考えている人
気が弱い、空気を異常に読んでしまう
他人を不快にすることを避けるために、自分自身の不快な感情を抑え込む傾向がある人。例えば、上司から飲み会で「一杯だけ飲んでみて」と誘われた場合、断ることによって雰囲気を壊したくないと感じ、適度な量以上に飲むことを強いられるかもしれません。
お酒をすすめられると断れない
他人からお酒をすすめられると断ることができない人。断らない状態が続いてしまうと、「お酒を強要しても断らない」というイメージを持たれてしまい、その後も飲まされる場面が増えアルハラのリスクにさらされる可能性があります。
上司の言うことには従うべきだと考えている
職場の上下関係を強く意識し、上司の指示や提案を否定することは許されないと考えている人。このような人は、上司が飲み会で「もう一杯どうだ?」と誘われると、断ることが難しい傾向にあります。
いじられ役
社内でよく他の社員から冗談を言われるような人。飲み会では、「〇〇さんが飲まないと始まらないよね」というジョークで、無理に飲むことを強いられる場面が生じる可能性があります。
若手は飲まないといけないと考えている人
若手の社員は、先輩からの圧力に耐えなければならず、経験や職位の観点から飲酒をしなければいけないと考えている人。立場的な問題もあり、身体的な限界を超えてまで飲酒する可能性があります。
以上のような特性を持つ人々は、気づかない間にアルハラの被害を受けたり、与えたりしていることが多くあります。もし、アルハラ行為が過度になってしまった場合は、法的な問題や、相手の精神的苦痛に繋がったり、企業の評判や生産性に大きなダメージを与えることになります。
アルコールハラスメント(アルハラ)が事件化した場合
事件に発展した場合は刑法上の罪に問われる可能性があります。
状況 | 罰則 |
---|---|
酔いつぶすことを目的に飲ませた場合 | 傷害罪 15年以下の懲役、50万円以下の罰金 |
飲酒を強要して、 急性アルコール中毒で死亡させた場合 |
傷害致死罪 3年以上の有期懲役 |
飲酒を強要して、 急性アルコール中毒となった場合 |
過失傷害罪 30万円以下の罰金または科料 |
泥酔者を放置した場合 | 保護責任者遺棄罪等 3年以上5年以下の懲役 |
泥酔者を放置して死亡させた場合 | 遺棄等致死傷罪 保護責任者遺棄等の罪と傷害の罪と比較して、重い刑により処断 |
威嚇して飲酒を強要した場合 | 強要罪 3年以下の懲役 |
運転をする恐れがある人に飲酒を強要した場合、提供した側も酒類提供罪(飲酒運転をするかもしれない人にお酒を提供して、その人が飲酒運転した際にお酒を提供した人が問われる罪)に問われます。提供された人が酒酔い運転をした場合は、提供した人が3年以下の懲役または50万円以下の罰金。酒気帯び運転をした場合は、2年以下の懲役または30万円以下の罰金となります。
これらはアルハラの結果として法的な罰を受ける可能性のある状況を示したものですが、このような結果に至らずとも、アルハラによる精神的なダメージは、雇用主の責任となり、損害賠償請求や労働審判の対象となることもあります。また、2019年5月に労働施策総合推進法が改正され、新たな法律(通称:パワハラ防止法)が成立し、ハラスメント行為全般に対して世間の意識が高まっているからこそ、しっかりと対策を検討しなければならないでしょう。
アルコールハラスメント(アルハラ)防止のために企業・上司が取るべき対策
アルハラは確かに大きなリスクで深刻な社会問題として認識すべきですが、アルハラに配慮しつつも、飲みニケーションが苦手な社員に対しては、その参加を無理に求めるようなことは行わないように、企業が取るべき対策をまとめました。
社内での酒の場におけるルール作り
酒の席での適切な行動や態度の明確な基準を設定することで従業員は自分がどのようにふるまうべきか、また他の人から何を受け入れるべきかについて明確な理解を持つことができます。ルール作りにおいて入れるべき内容の例は以下のようになります。
- 飲酒の強制を禁止
- 任意参加
- お酒を飲めない人も飲めるような配慮
- 一気飲みの禁止
- 酔いつぶれた人が出た場合の保護責任
任意参加やノンアルコール選択肢の提供などのルールを設けることで、アルコールを飲むことが困難な人や好まない人も含めて、全ての従業員が社内の飲み会に参加・不参加しやすい環境を作ることができ、明確なルールが設定されていると、従業員は互いに信頼し、職場内でのコミュニケーションの改善、チームワークの強化、職場の生産性の向上に貢献します。また、アルハラにつながる行為が発生した場合におけるルールを設けて遵守させることで、事件に発展した場合のリスクを低減させる可能性があります。
アルハラについての社内研修の実施
全ての従業員がアルハラとは何か、どういった行為がアルハラに当たるのかを理解するために以下の点に気を付けて研修を行うことが重要です。
- アルハラの内容
- ルールの周知
- アルハラの重大なリスクの説明
- 判例などを使い教育
アルハラを防ぐための具体的な行動を学ぶことで従業員は自分自身の行動を改善し、ルールを周知することで、同僚がアルハラに近い行動をとっている場合にも適切に指摘することが可能になります。
飲み会自体は悪くない節度をもって楽める取り組みを
アルハラに値する行為は絶対に行ってはなりませんが。飲み会は節度を守り、参加者全員が楽しめるよう、お酒の強要などは避け、参加の自由や飲酒量の選択肢を尊重することで有効なコミュニケーションの手段となることもあります。日本の法律ではアルハラ自体を特定の犯罪として規定するものはないものの、お酒の強要でアルコール中毒にさせてしまったりする行為によっては傷害罪、強要罪などの犯罪に該当する可能性があります。明確なルール作りや、アルハラについての研修を行うことで、アルハラの加害者や被害者を作らないよう、全ての社員が安心して働ける環境を作ることが企業が目指すべき、理想的な職場であると言えるでしょう。
急に起きる法的な問題に備えるために
対策や注意を行っていても、お酒の席ではハラスメントや法的トラブルが起きてしまう可能性があり、その場合は、弁護士のアドバイスを受けることは大変有効です。しかし、弁護士探しは時間と労力がかかる作業であり、その依頼費用も高額になり得ます。このような問題に素早く対応するために、弁護士保険が便利です。弁護士保険は、裁判費用などを保険金としてカバーし、急な法的トラブルに対応する際の経済的な負担を軽減します。他にも以下のようなメリットがあります。
弁護士保険に入るメリット
1.トラブルに発展する前に予防できる
弁護士保険に加入すると、弁護士保険加入者証や弁護士保険加入ステッカーがもらえます。これを提示することで「こちらはいつでも弁護士を使える」という姿勢を相手に伝えることでトラブルに発展する前の抑止力となります。
2.弁護士への電話相談が無料で出来る
弁護士のへの電話相談が無料で行えるといった付帯サービスが付いてきます。トラブルの概要を話し、そこからどう動くのが最善かを法律の専門家からアドバイスしてもらえます。
3.弁護士費用・裁判費用が補償される
それでも解決できずに訴訟などに発展したとしても、一般的に弁護士を使った時にかかる着手金や訴訟費用は保険で賄われますので高額な出費を恐れる心配がありません。
他にも多くのメリットがありますので詳しく知りたい方は以下のリンクをご覧ください。
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