経営者が知っておきたい会社の責任で従業員がうつ病になったときの判例:【予見可能性】と【結果回避性】

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ストレスなどの理由で脳の機能障害が起きて発症する「うつ病」。労働環境が原因でうつ病が発症したとして、従業員が会社を訴えるケースも少なくありません。どのような場合に、会社に責任があると認定されるのでしょうか。そこで、こちらの記事では、最高裁の判例をもとに解説。経営者が取るべき施策を考えていきます。

【事案】うつ病による職場復帰困難のため解雇された従業員の損害賠償請求訴訟

■事案の要約
過重な業務により、うつ病が発症した原告。就業規則の定める欠勤期間を超えた後も職場復帰しなかったため、会社は原告に対し解雇予告通知のうえ、解雇の意思表示をした。これを違法であり無効として損害賠償を求めた事案。

■裁判の結果 原審(東京高等裁判所)に差し戻す判決。従業員の敗訴部分を破棄するとした。損害賠償の額を定めるにあたり、原告が自らの精神的健康に関する一定の情報を会社側に申告しなかったことをもって、過失相殺(被害者側の責任割合相当分を損害額より差し引いて賠償すること)ができないとされた。

■判例のポイント
・うつ病発症以前の数か月は、休日や深夜を含む時間外労働を行い、かつプロジェクトのリーダーとして職責を担っていた。その際、業務の期限や日程を短縮されて督促等を受ける、メンバーの減員、過去に経験のない異種の製品の開発等の業務も新たに命ぜられるなど、その業務の負担は相当過重であったと認められた。

・入社以来、長年にわたり特段の支障なく勤務を継続していたことから、うつ病は特定の過重業務によって発症し増悪したものだと判断された。

・原審では、「神経科の医院への通院、その診断に係る病名、神経症に適応のある薬剤の処方等の情報を上司や産業医等に申告しなかったことは、会社が原告のうつ病の発症を回避したり発症後の増悪を防止する措置を執る機会を失わせる一因となったものであるから、上告人の損害賠償請求については過失相殺をするのが相当である」とされた。

しかし、最高裁では、「病名や処方薬は原告のプライバシーに属する情報であり、人事考課等に影響し得る事柄として通常は職場において知られることなく、就労を継続しようとすることが想定される性質の情報であった」とした。

必ずしも労働者からの申告がなくても、会社は安全配慮義務を負っているのであって、過重な業務が続く中でその体調の悪化が見て取れる場合、労働者本人からの積極的な申告が期待し難いことを前提に、必要に応じて業務を軽減するなど労働者の心身の健康への配慮に努めるべきだと判断した。

判例の詳細はこちらから
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=84051

最高裁の判例から考えるべきこと

この判例では、従業員が通院や処方薬について、会社に申告していなかったことから、高裁で過失相殺があるという判決が下りました。しかし、最高裁では、高裁の判断は法令の解釈適用を誤った違法なものだと判断し、損害賠償請求および見舞金支払請求に関する上告人敗訴部分を破棄するとともに、差戻しが言い渡されました。

この判決から分かることは、「企業には安全配慮義務があり、会社が積極的に社員の健康を把握して、施策を実施することが求められる」ということです。

安全配慮義務とは、労働契約法の第5条条文に記載されている「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」に基づいた考え方です。

つまり企業は従業員に対して、然るべき安全配慮を行わなければいけないことになります。そこで、安全配慮義務違反を回避するため、企業には次の2つの視点が必要です。

①【予見可能性】事業者が予見できた可能性があったかどうか
②【結果回避性】事業者が回避できた可能性があったかどうか

まず、①の【予見可能性】に関しては、従業員が仕事を通して怪我をしたり病気に罹ったりすることが予想できたかどうかの可能性です。また、もし予想できたとすれば、危険を回避することに努める必要があるというものです。たとえば、長時間労働によって健康障害やメンタルヘルス不調などが引き起こされることは、十分予見できます。そのうえで、企業は長時間労働を是正する取り組みをしていたかどうかが問われます。

次に、②の【結果回避性】ですが、従業員の健康を害することを回避する策はあったかどうかの可能性です。たとえば、ストレスチェックの結果が悪い従業員や、遅刻・早退が増えている従業員がいれば、産業医やカウンセラーの協力を得て、メンタルヘルス対策を実施するなどの策を講じることができます。

判例では、この【予見可能性】と【結果回避性】があったにも関わらず、対策を怠ったことが指摘されています。長時間労働以外にも、人間関係の改善やパワハラの撲滅、安全衛生教育の実施など、さまざまな施策が考えられます。

安全配慮が不十分な状態は、企業と従業員にとって大きなリスクです。過去の判例に照らし合わせて、従業員の安全を適切に守れているかどうか、改めて確認しましょう。


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