個人事業主は労働者として認められる?下請け業務における不当労働とは
2021年03月16日 2022年12月02日
個人事業主は、いわば社員一人の企業とも考えられます。ですから、企業と業務委託契約を締結する場合、企業対企業の契約と考えられがちです。しかしながら、一般に下請けと呼ばれるような形で業務を請ける状況においては、「労働者」として認められるケースもあります。どのような状況が考えられるのか、実際の判例を挙げて解説します。
不当労働についての控訴事件とは
ここで挙げる判例は、INAXメンテナンス事件と呼ばれる事件で、不当労働行為救済命令取り消し請求への控訴となります。
労働組合法では第一条において、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する「労働者」が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進し、労働者の地位を向上させること、その交渉のために労働者が労働組合を組織して団結することを擁護すること、使用者と労働者との関係を規律する労働協約締結のための団体交渉をすることなどを目的と規定しています。
原判決では、INAXから業務委託を請け負っていたサービスセンターが、自らを労働組合法第3条における「労働者」であると主張し、同サービスセンターが所属する団体からの使用者であるINAXに対する団体交渉に対する、INAXの対応が不当労働行為にあたるとした訴えで、中央労働委員会により認められていました。しかし、これを不服とした使用者であるINAXが、この命令を取り消しを求めた控訴審をおこしました。
INAXメンテナンス事件はこちらから
https://www.mhlw.go.jp/churoi/meirei_db/han/h10354.html
なぜ会社側が勝訴したのか
判決は、結果としてINAX側の主張が認められ、中央労働委員会に対しこの命令を取り消すこととし、INAX側の勝訴となりました。
では、なぜ原判決では認められていたサービスセンターの主張が否定されたのでしょうか? 争点は、個人事業主であるサービスセンターが「労働者」であるか否かであり、この判決では、サービスセンターが「労働者」であるとは認められなかったことが、その理由です。
個人事業主が「労働者」とみなされる条件とは
サービスセンター側が、自らを「労働者」と規定した理由は以下のとおりです。
〈1〉 当該企業の事業遂行に不可欠な労働力として企業組織に組み込まれている
〈2〉 契約内容が一方的に決定されていること
〈3〉 業務の遂行の日時・場所・方法などにつき指揮命令を受けていること
〈4〉 業務の発注に対し、諾否の自由がないことなどの事情が認められる
実際に、状況が上記の理由のとおりであれば、サービスセンターは「労働者」と規定されてしかるべきでした。
要件を満たしているかどうか
しかし、第二審で東京高裁は、業務実態としては、サービスセンターは
- 仕事の依頼に対して諾否の自由を有している
- 時間的・場所的拘束を受けない
- 業務遂行について具体的な指揮監督を受けることはない
- 報酬は行った業務の内容に応じた出来高として支払われている
というものでした。以上の要件から、その基本的性格は業務受託者、いわゆる外注先とみるのが実体にそくしていると考えられます。このため、法的に使用従属関係にあると評価することは困難であるとされたため、サービスセンターは労組法上の労働者に当たるということはできないと判断されました。
したがってINAX側が、サービスセンターからの団体交渉に応じなかったとしても、これをもって不当労働行為に当たるということはできないという結果となりました。
「労働者」として認められるかどうかがポイント
前述の判例から導き出される重要なポイントは、個人事業主が企業との間に業務提携契約を締結している場合であっても、実際の就労状況によっては労働者として認められるケースと、認められないケースがあるということです。
労働環境について、改めて見直してみる
前述の例から、労働者として認められるか否かで、場合によっては権利も変わりますし、場合によっては契約内容なども考え直さなければならないことがあることがわかります。
そこで、個人事業主として確認しなければならないのは、自分の立ち位置が果たして「労働者」として認められるのか? ということです。
判断するにあたっては、現在の自身の労働環境が、一般の企業の社員と置き換えた場合に、認められ得るものかどうかということが、ひとつの基準となります。
前述の判例に類する判例や、他の個人事業主の立ち位置を参考にするのも一案でしょう。
自身の立ち位置について、弁護士に相談してみよう
見直した上で、自身の立ち位置が労働者として認められないのではないか、あるいは、判断に迷う微妙な立ち位置にあると思われる場合、ぜひ一度、弁護士に相談してみることをおすすめします。
大げさに感じられるかもしれませんが、思い込み、思い違いのままで事業を進めた場合、損をしてしまう場合もあります。また、一方で、訴訟などに発展した場合、思うような判決にいたらない可能性も捨てきれません。プロの判断を仰ぎ、自身の立ち位置を明確にしておけば、今後、さまざまな状況での判断にも自信を持って望めるでしょう。
弁護士費用保険の教科書Bizでは、中小企業法務チャンネルを運営しています。他にも、様々な中小企業・個人事業主の方に役立つ法務情報を弁護士とともに発信しているので、是非参考にしてみてください!
こちらの記事もおすすめ
KEYWORDS
- #フリーランス新法
- #フリーランス
- #内容証明
- #臨床法務
- #戦力法務
- #債務不履行
- #威力業務妨害
- #内定
- #始期付解約権留保付労働契約
- #アルハラ
- #法律相談
- #慰謝料
- #知的財産権
- #窃盗罪
- #カスハラ
- #クレーム
- #私文書偽造罪
- #不法行為責任
- #問題社員
- #業務委託
- #時間外労働の上限規制
- #敷金返還請求
- #器物損壊罪
- #電気通信事業者法
- #有線電気通信法
- #電波法
- #迷惑防止条例
- #証拠収集
- #労働安全衛生法
- #弁護士保険
- #事業者のミカタ
- #コロナ
- #LGBT
- #事業継承
- #起業
- #マタハラ
- #解雇
- #M&A
- #借地借家法
- #サブリース
- #風評被害
- #情報開示請求
- #特定電気通信
- #自己破産
- #破産法
- #別除権
- #外国人労働者
- #セクハラ
- #ハラスメント
- #時効
- #個人情報保護法
- #サブリース契約
- #共同不法行為
- #外国人雇用
- #競業避止義務
- #退職金
- #職業選択の自由
- #弁護士
- #下請法
- #事件
- #過労死
- #注意義務違反
- #労働基準法
- #解雇権
- #不当解雇
- #著作権
- #フリー素材
- #契約書
- #業務委託契約
- #再委託
- #Web制作
- #デイサービス
- #訪問介護
- #老人ホーム
- #動画解説
- #定期建物賃貸借
- #定期賃貸借契約
- #損害賠償
- #不法行為
- #使用者責任
- #雇用
- #障害者差別解消法
- #差別
- #障害者
- #パワハラ
- #少額訴訟
- #裁判
- #破産
- #債権回収
- #交通事故
- #労災
- #内定取り消し
- #留保解約権
- #景品表示法
- #薬機法
- #家賃交渉
- #フランチャイズ
- #うつ病
- #未払い
- #遺失物等横領罪
- #無断キャンセル
- #業務上横領罪
- #誹謗中傷
- #賃貸借契約
- #家賃未払い
- #立ち退き
- #判例
- #就業規則
- #有給休暇
- #クレーマー
- #残業
- #入店拒否
- #予防法務
- #顧問弁護士
- #健康診断
- #個人情報
RANKING
-
01
【弁護士監修】相手に許可のない録音・盗撮は違法? 電話や会話の証拠を録音・録画する方法と機器を紹介
-
02
【弁護士監修】客を選ぶ権利は法律に存在する? 入店拒否・出禁が違法になる場合とは。
-
03
【弁護士監修】少額訴訟のメリット・デメリットとは。費用・必要書類から手続きの流れまでを解説。
-
04
免責事項と注意事項は何が違う? その効力から職業別の例文までわかりやすく紹介。
-
05
無断駐車への張り紙や罰金は有効? 無断駐車の対策と対応、してはいけないこと。
-
06
フリーランス・個人事業主が知っておきたい労働基準法の考え方と適用される要件
-
07
キャンセル料は取れる? 予約の無断キャンセル(ノーショー)問題の対策と法律を学ぶ
-
08
【弁護士監修】レジ金の計算が合わない! その原因と対策。窃盗が判明した際の対処法とは。
-
09
店で泥酔した客が暴れたら損害賠償は取れる? 酔客トラブルの予防と対処法
-
10
初めての法律相談(弁護士相談)時に注意すべき6つのポイントと無料相談の方法
動画で学ぶ!
事業者向け法律知識
同じカテゴリの記事
KEYWORDS
- #フリーランス新法
- #フリーランス
- #内容証明
- #臨床法務
- #戦力法務
- #債務不履行
- #威力業務妨害
- #内定
- #始期付解約権留保付労働契約
- #アルハラ
- #法律相談
- #慰謝料
- #知的財産権
- #窃盗罪
- #カスハラ
- #クレーム
- #私文書偽造罪
- #不法行為責任
- #問題社員
- #業務委託
- #時間外労働の上限規制
- #敷金返還請求
- #器物損壊罪
- #電気通信事業者法
- #有線電気通信法
- #電波法
- #迷惑防止条例
- #証拠収集
- #労働安全衛生法
- #弁護士保険
- #事業者のミカタ
- #コロナ
- #LGBT
- #事業継承
- #起業
- #マタハラ
- #解雇
- #M&A
- #借地借家法
- #サブリース
- #風評被害
- #情報開示請求
- #特定電気通信
- #自己破産
- #破産法
- #別除権
- #外国人労働者
- #セクハラ
- #ハラスメント
- #時効
- #個人情報保護法
- #サブリース契約
- #共同不法行為
- #外国人雇用
- #競業避止義務
- #退職金
- #職業選択の自由
- #弁護士
- #下請法
- #事件
- #過労死
- #注意義務違反
- #労働基準法
- #解雇権
- #不当解雇
- #著作権
- #フリー素材
- #契約書
- #業務委託契約
- #再委託
- #Web制作
- #デイサービス
- #訪問介護
- #老人ホーム
- #動画解説
- #定期建物賃貸借
- #定期賃貸借契約
- #損害賠償
- #不法行為
- #使用者責任
- #雇用
- #障害者差別解消法
- #差別
- #障害者
- #パワハラ
- #少額訴訟
- #裁判
- #破産
- #債権回収
- #交通事故
- #労災
- #内定取り消し
- #留保解約権
- #景品表示法
- #薬機法
- #家賃交渉
- #フランチャイズ
- #うつ病
- #未払い
- #遺失物等横領罪
- #無断キャンセル
- #業務上横領罪
- #誹謗中傷
- #賃貸借契約
- #家賃未払い
- #立ち退き
- #判例
- #就業規則
- #有給休暇
- #クレーマー
- #残業
- #入店拒否
- #予防法務
- #顧問弁護士
- #健康診断
- #個人情報
RANKING
-
01
【弁護士監修】相手に許可のない録音・盗撮は違法? 電話や会話の証拠を録音・録画する方法と機器を紹介
-
02
【弁護士監修】客を選ぶ権利は法律に存在する? 入店拒否・出禁が違法になる場合とは。
-
03
【弁護士監修】少額訴訟のメリット・デメリットとは。費用・必要書類から手続きの流れまでを解説。
-
04
免責事項と注意事項は何が違う? その効力から職業別の例文までわかりやすく紹介。
-
05
無断駐車への張り紙や罰金は有効? 無断駐車の対策と対応、してはいけないこと。
-
06
フリーランス・個人事業主が知っておきたい労働基準法の考え方と適用される要件
-
07
キャンセル料は取れる? 予約の無断キャンセル(ノーショー)問題の対策と法律を学ぶ
-
08
【弁護士監修】レジ金の計算が合わない! その原因と対策。窃盗が判明した際の対処法とは。
-
09
店で泥酔した客が暴れたら損害賠償は取れる? 酔客トラブルの予防と対処法
-
10
初めての法律相談(弁護士相談)時に注意すべき6つのポイントと無料相談の方法
動画で学ぶ!
事業者向け法律知識