秘密保持契約を結ぶときの注意点(経営者向け):判例から学ぶ契約問題
2021年02月28日 2022年12月28日
非公開の機密情報や個人情報などの漏えいを抑止するために、企業が取引先や従業員との間で締結する「秘密保持契約」。情報の漏えいは企業にとって、重大な損害につながる可能性が高いため、契約内容は慎重に検討しなければなりません。
そこで、こちらの記事では、秘密保持契約違反に関する判決をもとに、契約内容を考えるうえでの注意点を確認します。
判例の紹介:秘密保持義務違反による損害賠償請求の事案
■事案の概要
食品の商品企画、開発、販売を手掛ける会社Xが、元従業員Yを秘密保持に関する合意に違反し、転職後に機密情報を使用して営業等を行ったなどとして、Yおよび転職先等に損害賠償を請求した。
■判決結果
原告(会社X)の請求はいずれも棄却。
■判決のポイント
・会社Xと元従業員Yとの間の退職後の秘密保持義務については、Yの退職後の行動を過度に制約するものでない限り、有効であるとした。
・両者が結んだ「誓約書兼同意書」には、秘密保持条項について、主に以下の2つのことが書かれていた。
(1)Xに在籍中・退職後にかかわらず、業務上知り得た機密事項につき、第三者に対する開示・漏えい、目的外使用、これを用いた営業・販売行為を行わない。なお、機密事項に規定されていたのは、次の4点。
1.Xの経営上、営業上、技術上の情報の一切
2.Xの顧客、取引先に関する情報の一切
3.Xが顧客、取引先と行う取引条件など取引に関する情報の一切
4.その他、Xが機密事項として指定する情報の一切
(2)(1)の違反によりXが損害を被った場合には、その損害を賠償する
しかし、Yが外部に漏えい、開示したとされる機密情報が、機密情報に該当するかどうかについて、情報が秘密として管理されていたことを裏付ける証拠がないと判断された。
判例の詳細はこちらから
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/191/087191_hanrei.pdf
経営者が注意すべきポイント
この判例では、不正競争防止法2条6項の「営業秘密」の3要件、すなわち、「非公知性(保有者の管理下以外では一般的に入手することができない状態にあること)」「有用性」「秘密管理性」を前提とする限りにおいて、秘密保持条項は有効であるとされました。
その3要件、とりわけ「秘密管理性」に照らし合わせると、Xが機密情報だと主張した「規格書」「工程表」「原価計算書」「得意先・粗利管理表」のいずれもが、明確に秘密だと認識し得るかたちで管理されていたとは言えない、と結論付けられたことになります。
では、何をもってして「秘密管理性」が認められるのでしょうか。平成27年に全部改訂された経済産業省の営業秘密管理指針には、次のように定められています。
「秘密管理性要件が満たされるためには、営業秘密保有企業の秘密管理意思が秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保される必要がある。(中略)企業における営業秘密の管理単位における従業員がそれを一般的に、かつ容易に認識できる程度のものである必要がある」
つまり、従業員誰しもが、何が秘密に当たるのかをはっきり理解している、という措置を講じることで、秘密管理性要件が満たされると判断されることになります。
今回ご紹介した判例のように、単なる形式的な営業秘密保持の誓約書を交わしただけでは、機密情報の開示や漏えいがあっても、法的な保護を受けられないケースがあります。そのため、大前提として、秘密にしたい情報が秘密としてきちんと管理されているかの確認が重要。
たとえば、自社にとってどのような情報が秘密事項であるかを特定し、誓約書や同意書に具体的に明示することなどは、最低限必要な措置です。さらに、その情報にアクセスする従業員や外部の取引先などが、秘密事項であることを明確に認識できる状態にしておく必要があると言えるでしょう。
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