従業員の長時間労働と企業の安全配慮義務(経営者向け):大庄事件の判例に学ぶ
2021年02月19日 2022年12月02日
過労で労働者が亡くなってしまった場合、経営陣が罪に問われるケースがあります。今回は大庄事件を参考に、安全配慮義務違反について解説し、経営者がとるべき施策を考えていきます。
判例の紹介
事案:飲食店従業員Aが急性左心機能不全により死亡した事案につき、会社が安全配慮義務違反による損害賠償責任を負うかが争われた事案
判決結果:京都地裁は、Aの死亡の原因はY社の長時間労働にあるとして、Y社の不法行為精勤と、Y社の取締役らの会社法429条第1項による責任をそれぞれ肯定した。そして、Aの死亡に、自己管理の不十分さを認めるに足りる証拠はないとした。Yらは控訴したのち、上告したが、いずれも棄却されたため、京都地裁の判決で確定した。Y社は約7860万円の支払いを命じられた。
判例の詳細はこちらから https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/90025.html
判決結果の解説
・裁判所は、会社法429条1項(役員等の第三者に対する損害賠償責任)に基づく責任を認め、Y社は安全配慮義務に違反したと評価したことになります。
会社法429条1項
役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
判決結果のポイントの解説
「安全配慮義務」とは、社員が安全で健康に働くことが出来るように配慮しなければならない、会社の義務のことです。
今回の判例の場合、長時間労働を前提とした勤務体系や給与体系をとっており、労働者の生命・健康を損なわないような体制を構築していませんでした。
基本給+役割給が月給とされていましたが、その役割給は月80時間の残業代のことでした。月80時間という残業時間は、厚生労働省の過労死認定基準と同じです。これは、安全配慮義務が行き届いているとは言えないでしょう。
不合理な内容の労働管理を行っていると、会社の安全配慮義務違反だけでなく、取締役の損害賠償責任まで問われます。先にあげた会社法429条1項の通りです。
事件から導き出される示唆
この判例のY社は飲食業界の大手で、外食産業界においては、1ヶ月100時間の残業はむしろ一般的と主張していました。業界慣習があるとはいえ、長時間や無理のある仕事内容を前提とした労働管理は法律的に非常にリスクがあります。今一度、労働者の持てる力を最大限引き出すためにも、勤務体系を見直してみましょう。
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