【弁護士監修】私人逮捕(現行犯逮捕)とは。その要件と通常逮捕との違いや違法性について解説。
2023年11月09日 2023年11月13日
SNSを中心に注目を集めている私人逮捕系YouTuber。その手法に賛否さまざまな意見が見受けられます。果たして私人逮捕とはどのような要件により適用されるのでしょうか? 事業においても、万引きやクレーマーなどトラブルに巻き込まれるケースは少なくないため、その要件をしっかり抑えて適切な対応を取るようにしましょう。本記事では弁護士監修のもと、私人逮捕の要件から私人逮捕系YouTuberに対する見解などを詳解していきます。
目次
私人逮捕とは
逮捕できる人 | 逮捕状 | |
---|---|---|
通常逮捕 | 検察官 検察事務官 司法警察職員(警察) |
必要 |
緊急逮捕 | 同上 | 不要 |
現行犯逮捕 | 同上 一般人 |
不要 |
逮捕には大きく分けて通常逮捕・緊急逮捕・現行犯逮捕の3種類が存在します。本記事の趣旨から外れるため詳しくは解説しませんが、通常逮捕とは検察官・検察事務官・司法警察職員のいずれかが裁判所から発せられた逮捕状(令状)に基づいておこなう逮捕です。通常逮捕は事件が発覚、捜査、逮捕状の請求、逮捕状発行、逮捕という正式な手順を踏まなければならず、国家権力が国民の「自由」を侵害しないよう、慎重に行われるものです。
そして本記事の主題である私人逮捕は現行犯逮捕に当たります。現行犯逮捕とは通常逮捕と異なり逮捕状が不要かつ、警察官などじゃない一般人でも行うことができます。しかし、法律にそれほど詳しくない一般人がいたずらに誰でも逮捕することができるとなると、他人の自由の侵害になる可能性が高いため、以下のような要件が定められています。
私人逮捕の要件
1.犯人が現行犯人、準現行犯人であること
現行犯人、または準現行犯人の要件を満たす必要があり、下記条文がその要件です。
刑事訴訟法212条 条文
1項 現に罪を行い、又は現に罪を行い終った者を現行犯人とする。
2項 左の各号の一にあたる者が、罪を行い終ってから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす。
一 犯人として追呼されているとき。
二 贓物(ぞうぶつ)又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。
三 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。
四 誰何(すいか)されて逃走しようとするとき。
現行犯人
例えば目の前で人を刺したのを目撃したなど犯行直後であることが明確である場合、その犯人は現行犯人であり、私人でも現行犯逮捕が可能となります。
準現行犯人
犯行の瞬間を目撃してはいないが、明らかに犯行直後であることが明確である場合は準現行犯人となります。例えば、血だらけの人が倒れていて、その近くに包丁を持った血だらけの男が立ってた。などは準現行犯人となります。
2.軽微事件の現行犯の場合、犯人の素性が明らかでない、または逃亡のおそれがある
刑事訴訟法217条 条文
30万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、2万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪の現行犯については、犯人の住居若しくは氏名が明らかでない場合又は犯人が逃亡するおそれがある場合に限り、第213条から前条まで【第213条、第214条、第215条、第216条】の規定を適用する。
例えば、いわゆる立ションをした場合、軽犯罪法違反が適用されますが、それだけで逮捕されるとは普通思いませんよね? そのような軽微な犯罪の場合は上記条件を満たさなければ現行犯逮捕することはできません。
以上をまとめると、現行犯逮捕(私人逮捕)が可能なのは犯罪が明らか(誤認逮捕の恐れがない)であり、なおかつ身体の確保をする必要がある場合に限られます。
私人逮捕の方法と注意点
私人逮捕の方法としてはシンプルに取り押さえることになります。しかし、犯人が一切抵抗していないにも関わらず過剰に暴力を振るったり、怪我を負わせたりした場合、逆に逮捕者が罪に問われる可能性も出てきます。犯人からどのような抵抗を受けたか、犯人に対して行った有形力の程度、犯人が負った怪我の程度、などの事情を総合的に判断して違法かどうかが判断されます。
また、私人逮捕によって犯人を逮捕した場合、速やかに警察に連絡をして身柄を引き渡しましょう。理由もなく過剰に引き渡しまでの時間がかかった場合、逮捕監禁罪として逮捕した人が罪に問われる場合があります。
私人逮捕が違法となるケース
刑法220条
不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。
本来、私人逮捕とは逮捕罪に該当する犯罪行為となります。しかし、現行犯逮捕の要件を満たすことにより、違法性がなくなり逮捕罪にはならなくなります。そのため、以下のようなケースだと私人逮捕した側が逮捕される可能性があるので注意しましょう。
1.現行犯逮捕の要件を満たしてない場合
前項「私人逮捕の要件」の条文の条件を満たさずに他人を逮捕した場合、不当に人を逮捕・監禁したこととなり逮捕罪が適用されます。
2.正当な逮捕だが過剰な暴力を振るった場合
犯人が一切抵抗をしてないにも関わらず、殴る蹴るなどの暴行を加え相手が怪我をした場合、過失傷害罪が適用される可能性があります。
3.不当な逮捕に加え、相手に怪我を負わせてしまった場合
現行犯逮捕の要件を満たしてないことに加え、さらに相手に怪我を負わせてしまった場合、逮捕罪よりもさらに重い逮捕致傷罪が適用される可能性があります。
4.直ちに身柄を引き渡さなかった場合
刑事訴訟法第214条により、私人逮捕した場合は直ちに犯人の身柄を警察官などに引き渡すことが義務付けられています。これは一度私人逮捕を行った場合、一般人の判断で犯人を釈放する権利がないためであり、勝手に釈放すると犯人隠避罪に問われる可能性があります。また、不当に長時間拘束した場合は逮捕監禁罪が適用される可能性もあります。
SNSにおける私人逮捕系YouTuberの問題点
本項は事業者とは関係ありませんが、SNSで話題となっている私人逮捕動画の問題点について当サイトの見解を述べていきます。
1.現行犯逮捕の要件を満たしているのか不明
動画によりますが、犯行現場まで映されている痴漢犯罪などは特に問題ないように思います。しかし、チケット転売動画などに関してはチケットの転売に関してはチケット不正転売禁止法として細かな条件が定められています。当該動画だけでは不正転売禁止法違反の罪が成立しているかはわからないものが多数を占めています。現行犯逮捕(私人逮捕)の要件としてその場で犯罪行為が行われたことを現認する必要があり、アップロードされている動画では、それらの要件を満たしているのかが不明瞭な動画も見受けられるため、本当に現行犯逮捕の要件を満たしているかが不明と言えるでしょう。もしも罪が成立してないにも関わらずYouTubeなどに動画を公開した場合、YouTuber側が名誉毀損などの罪に問われる可能性もあります。
↓のURLから文化庁によるチケット不正転売禁止法の内容が確認出来ます
2.犯罪行為を助長している可能性がある
チケット転売動画でよく見られるのが、YouTuberらが自らチケットを高額転売してる人間にコンタクトを取り、購入する約束をした後に当日に待ち合わせ場所で取り押さえるというものです。これは犯意誘発型のおとり捜査に該当する可能性が高いです。捜査機関は一定の要件のもとでおとり捜査を行うことができます。しかし、適法に行うための要件が、判例で厳しく規定されており、本来、捜査を行うことを業務としない私人がおとり捜査を行うことは、そもそも認められないでしょう。そして、私人が犯罪行為をやらせるということは、当該犯罪の幇助犯(手伝った罪)や教唆犯(そそのかした罪)に問われる可能性があります。私人によるおとり捜査が認められない以上、当該幇助犯や教唆犯が正当化される余地はなく、Youtuber自身も共犯とされる可能性が十分にあるでしょう。
3.証拠動画を収益化するという行為
私人逮捕系YouTuberの行動理念として犯罪の撲滅を謳っており、犯罪行為の証拠としての動画撮影は問題ないかもしれませんが、それを収益化するためにYouTubeやSNSにアップロードするという行為に賛否が集まっています。確かにアップロードすることで、犯罪者に対する啓発になる可能性もありますが、そこまでやってしまうことで、本来の目的は犯罪の撲滅ではなく収益化が目的なのではないか?と疑われる可能性も高くなります。また、適法な私人逮捕でなかった場合自らの違法行為の証拠をアップロードすることになります。
事業をしているうえで起こり得る現行犯(私人)逮捕
万引き・窃盗
もっとも事業者に身近な犯罪で、小売店の方は特に注意すべき犯罪行為です。万引きの現場を目撃した場合は速やかに犯人の身柄を拘束し逮捕することができます。
暴行・傷害・器物破損
飲食店を経営している場合などに多いですが、酔客同士が喧嘩をしたり、従業員に対して暴力を振るうケースも少なくありません。そういった場合、有形力を行使し取り抑えることができます。
業務妨害罪
営業に迷惑行為をし業務を妨害する罪です。しばしばみられる類型ですが、正当なクレームなのか、違法な業務妨害なのか判断に迷うこともあります。そのため、店先で叫ぶなどの迷惑行為の場合はただちに警察に通報するのが適切ですが、暴れまわったり他の客に危害を加えるなど上記の罪が重なった場合はただちに身柄を拘束することが可能です。
トラブルに備えていつでも弁護士に相談できる体制を
上記のように、事業を行っていくうえで様々な法的トラブルに巻き込まれる可能性があり、万引きなどにあった際の適切な処置などのアドバイスは法律の専門家である弁護士にもらうのが最適です。ただ「これだけのために弁護士に相談していいのか」「弁護士に相談するには費用が心配」「どこに相談したらいいかわからない」と、弁護士を利用するハードルが高いと考えている方も多いのでないでしょうか? そこでおすすめなのが弁護士保険です。
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