債務超過とは?赤字との違いや倒産・解散などの可否から予防策まで詳しく解説
2023年07月12日 2023年07月14日
債務超過は、企業の経営において大変危険な状態です。では、実際に債務超過に陥ってしまうと具体的にどのような問題が発生するのでしょうか。また、予防策や解消方法としてどのような対応ができるのか。本記事では、債務超過についてより具体的に詳しく解説していきたいと思います。
目次
債務超過と赤字との違い
「債務超過」と「赤字」。一見どちらも、単に企業が財政的に厳しい状態だと捉えられられやすい言葉ですが、この二つの言葉は意味合いが大きく異なります。それでは、まずはこれらについてみていきます。
赤字
赤字とは、一般的に収入から支出(費用)を差し引いて、それがマイナスとなる状態をいいます。その判断基準としては、企業のある一定期間における経営成績を表す、「損益計算書」が用いられます。
しかし、一時的に赤字になるといったことは、取引の多い企業や事業投資を行う企業であれば通常想定されうることであり、一概に赤字だからといって問題があるとはいえません。企業が存続を懸念する問題とは、利益の有無ではなく、債務の返済能力がなくなった時に生じるからです。
債務超過
債務超過とは、企業の貸借対照表上の負債の額が、保有する資産の額を超過する状態をいいます。つまり、仮に債権や土地、建物等をすべて売却しても、その負債を返済することができないといった状態となります。もちろん、負債といっても支払猶予期間が長い固定負債や長期借入金といったものも含まれますので、必ずしも債務超過の状態になったからといって倒産を懸念する必要はありません。しかし、そのような状況が長期化してしまうことは、企業の存続にかかわる問題となってしまうので、対処法を検討していく必要があります。赤字の判断基準が損益計算書であることに対し、債務超過の判断基準は、企業の一時点(決算日など)の財務状況を表す「貸借対照表」が用いられます。
債務超過はどうして起こる?
そもそも、債務超過はどうして起こるのでしょうか。継続的な赤字決算の場合だけでなく、決算上では黒字であるのにもかかわらず債務超過に陥ってしまう場合もあります。具体的にみていきましょう。
経費の増加
売上が計上されている場合でも、経費の増加が債務超過の原因となることがあります。例えば、原材料や労働力のコストが上昇し、売上増加分を上回るペースで経費が増加する場合です。また、販売促進費や広告宣伝費の増加なども債務超過につながる要因となります。
売上高の回収遅延
売上が計上されているにもかかわらず、売掛金の回収が遅れる場合、キャッシュフローの問題が生じます。債権の回収が遅れることで、資金繰りが悪化し、債務超過に陥る可能性があります。
資金不足
売上が計上される一方で、経営に必要な資金の調達ができない場合、債務超過になることがあります。例えば、融資や借入が制約され、運転資金や投資に必要な資金を調達できない場合が想定されます。また、競争の激化、需要の低迷、不利な経済状況なども資金不足の原因となります。
負債の返済能力の低下
上記の売上高の回収遅延に関連しますが、会社のキャッシュフローが減少し、負債の返済能力が低下すると、債務超過に陥りやすくなります。負債の返済には現金が必要ですが、会社のキャッシュフローが減少すると、返済に充てる現金が不足し、債務を弁済することができなくなります。これは、業績不振、運営上の問題、資金調達の困難などが要因となります。
債務超過に陥るとどうなる?
実際に債務超過に陥るとどのようなリスクがあるのでしょうか。一つずつみていきましょう。
資金調達が難しくなる
まず、銀行からの融資を受けられなくなることが想定されます。金融機関側としては、債務超過の企業にお金を貸しても返済されないリスクが多くなってしまいます。そのため、今後の融資を見送られたり、現在受けている融資の返済を迫られるといった状況が想定されます。
企業の信用力の低下
債務超過という状態は、銀行だけでなく取引先からの信用を失ってしまう状況が懸念されます。相手方に売掛金の貸倒れリスクや継続的取引が今後困難になると判断されてしまった場合、取引条件の厳格化や取引を停止させられる恐れがあります。また、新規の取引先との契約の締結も難しくなるでしょう。
倒産のリスク
債務超過は、負債の弁済、事業の立て直しのために資金調達や他社との積極的な取引が必要であるのにも関わらず、それらがますます難しくなるという企業にとって苦しい状況を作り出します。このような状況が継続する場合、当然事業の継続が困難となり、負債の弁済ができなくなってしまうため、いずれ倒産することが想定されるでしょう。
適切な資金管理による債務超過の予防
前述のとおり、企業が倒産する原因は、損益計算書上赤字が出ているからではありません。売上高が計上され、決算上黒字であっても売上債権の回収よりも債務の支払期日が先行することにより、黒字倒産するケースもあります。実際、倒産に至る企業の多くが赤字企業であることは確かなのですが、真の原因としては現金残高の不足による債務不履行にあるといえるでしょう。したがって、企業経営においては、発生主義ベースの損益管理だけではなく、債務を約定どおりに支払うための現金主義ベースの資金管理も重要ということになります。以下、具体的な予防策をいくつか紹介します。
資金繰り表
キャッシュフローの管理として、資金繰り表の作成はとても有効といえます。売掛金や受取手形の現金買取日、買掛金や支払手形の入金日等の現金の流れを可視化して管理することにより、資金不足になる状況を回避しやすい状態を作ることができます。
ファクタリング
ファクタリングとは、売掛金をファクタリング会社に売却し、本来の売掛金回収期日よりも早く現金として受け取るという資金調達方法です。これにより、入金のサイクルを短縮することができ、資金繰りを改善することができます。
経営体質の改善
基本的ではありますが、そもそも債務超過に陥らない経営をしていくということが一番に重要といえるでしょう。特に、慢性的な赤字経営は債務超過に陥る典型的なケースといえます。継続的に業績が悪化している場合、早めに事業撤退の意思決定をする、削減できる経費は極力抑える、まだ余裕のあるうちに資金調達をすすめておくといった行動を早急に実施していくことで、未然の予防策を講じていきましょう。また、経営改善について不安がある場合や、会社内外での何かしらのトラブルを抱えている場合は、無理に行動せず、経営コンサルタントや弁護士に相談してみるという判断も大切です。
債務超過の解消方法
どれだけ資金管理に気をつけていても、社会経済の影響や事業投資の収益を見誤るなど、不測の事態は起こりえます。では、実際に債務超過に陥った場合、どのような対処が必要なのでしょうか。すぐに倒産を懸念することはないとはいえ、企業にとって好ましくない状況であることは間違いありませんので、早急な対応が必要です。
増資をする
増資とは、企業が株式を発行して投資家から資金を募り、資本金を増やすことです。これにより、貸借対照表の純資産の額が増えるので、負債を減額する応急処置となるでしょう。
より具体的には、以下の方法があげられます。
経営者出資
経営者が個人的に資金に余裕がある場合には、その資金を会社に出資するケースがよく見られます。また、小さな会社では経営者の親族や友人、知り合いに出資をお願いするなど、身近に頼れる人物に助けてもらうといったことも一つの方法としては有効です。
現物出資
現物出資とは、現金で出資を受けるのではなく、車両運搬具や機械、建物などの動産ないし不動産など「モノ」で出資を受けるという方法です。現物出資として申請した資産は固定資産と減価償却費処理することができるため、節税効果が期待できます。
第三者割当増資
第三者割当増資とは、特定の第三者を出資者として発行した新株を引き受ける権利を与え、その権利の対価として出資を得ることによって資金調達を行う方法です。この方法は会社側で出資者を指定できるため、敵対的な株主を排除しつつ友好的な株主の持分を増やせる点が特徴的です。
株主割当増資
株主割当増資とは、すべての既存株主に対して、その持分割合に応じて新株を引き受ける権利を与えることで出資を募る資金調達方法です。この方法では増資の前後で株主構成や支配関係に影響を与えることがないという利点があります。
デット・エクイティ・スワップを利用する
デット・エクイティ・スワップ(Debt Equity Swap)とは、債権者(銀行など)に自社株を与えるかわりに企業は負債を免除してもらうという方法です。これによって負債が目減りし、本来返済義務のあった元本やその利息が返済義務のない株式になるため、収益とキャッシュフローが改善します。さらに、負債が資本金になることにより自己資本比率が上がるため、対外的な信用力の向上につながります。
しかし、DESによって債権者が株主になるため、企業に影響力を及ぼす可能性が想定されます。そのため、負債を減らすことができるかわりに経営面での自由度が低下する恐れがあります。
債務免除手続
債務免除とは、債務者が債権者に債務の免除を合意してもらう手続きをいい、これにより債務者である企業は債務の弁済をしなくて済むということになります。お金を貸した側からすると債権を放棄して損失を被る行為となりますので、通常債権者が債務免除に応じてくれることは、企業の倒産や裁判所に命じられた場合といった特殊な状況でしか通常想定されません。しかし、比較的小規模の会社である場合、経営者自身あるいはその家族が会社にお金を貸しているという状況の場合は債務免除、つまり経営者自身が損失を引き受ける(お金が戻らないことを了承する)という形で手続きをすることができます。
また、経営者自身が会社に対して多額の貸付を行っている場合で、その回収が見込めないといった状況においては、早めに会社が債務免除を受ける(経営者は債権を放棄する)という選択を検討することが有効である場合があります。なぜなら、経営者個人は会社に対して多額の債権を持っているという状況なので、もしも経営者が不慮の事故や病気で死亡した場合、遺族には弁済されない債権に対して多額の相続税が発生してしまう虞があるからです。このように、法人としての会社の立場と経営者個人の立場という双方のメリットから、債務免除手続は一つの方法として有効となり得ます。
債務免除の注意点としては、本来会社が負担するはずの債務が消滅したことにより、税務上、債務免除益としてその額が益金算入され、課税所得が増額する可能性があります。
いずれにせよ、専門的な知識による判断の必要性が想定されますので、これらの対応策を講じる場合は弁護士等、専門家への相談をおすすめいたします。
債務超過による倒産・解散の可否
債務超過に陥り、企業の存続が困難となった場合、最終的には廃業とその後の処理を検討しなければなりません。そこで、「倒産」や「解散」といった言葉が思い浮かばれるかと思われますが、この二つは法的な観点から異なる概念です。
「倒産」と「解散」の違い
倒産は、債務の支払いが不能となり、経営状態が崩壊することを指します。倒産すると、会社は自己破産手続きに入り、債権者の利益を保護するために会社の資産を売却するなど、債務の返済に関する手続きを中心に行います。そして倒産手続きの結果、会社は法的に消滅することになります。
一方、解散は、会社が存続する必要がないと判断された場合に行われる手続きです。解散は、会社法や契約書に基づいて行われ、会社の取締役や株主の決議によって決定されます。解散手続きでは、会社の資産は債権者や株主に分配されることがありますが、倒産手続きほど厳格ではありません。倒産手続に対し、解散手続は資産の分配に主な焦点が当てられます。
倒産手続
会社が債務超過になった場合、通常は倒産手続が行われます。
会社の負債が資産を上回る債務超過の状況においては、会社は債務の返済が困難となり、倒産手続に入ることが一般的です。
倒産手続には、「自己破産手続」と「民事再生手続」の二つの主要な方法があります。自己破産手続では、会社は債務の返済ができないことを宣言し、破産管財人の指導のもとで資産の売却や債務の整理を行います。一方、民事再生手続では、会社は再建を図るために債権者との交渉を行い、返済計画を提案します。
Tips 破産管財人の役割と選定 |
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破産管財人は、破産手続の進行管理、債権者への債務の弁済のための資産の査定、各種文書の作成などを行います。破産管財人は裁判所によって選任されますが、その選任は破産法の知識を有し、破産管財人候補者名簿に登録されている弁護士に限られます。 |
解散手続
会社に負債があり、それが弁済できていない場合でも、解散することは可能です。ただし、解散手続においては、未解決の債務があることが考慮されます。
解散手続きでは、会社の債権者に対して未払いの債務を優先的に返済するための手順が含まれます。会社の資産があれば、それを債権者に分配することが一般的です。しかし、資産が不足していたり、債務が多すぎて完全に返済できない場合、債権者は一部の債権しか回収できません。解散手続きによる債務の返済が不完全である場合、債権者は返済を求めるためにさらなる手続きを取ることになるでしょう。また、債務者である会社の解散後も、債務は経営者等に個別の責任として残る可能性も想定されます。さらには、債務超過状態での解散では、会社が負担しきれなかった債務は個人財産などに及ぶ場合もあります。
したがって、解散は負債があっても可能ですが、債権者の利益を考慮しながら、未解決の債務に関する手続きが行われることになります。
債務超過にお悩みの場合、専門家に早めの相談を
債務超過に陥った場合、債務に関する債権者との衝突や、倒産手続等の煩雑な問題が多々生じえます。そのため、債務超過に陥る可能性がある場合、出来るだけ早い段階において弁護士に相談しておくことがトラブル回避への近道と言えるでしょう。そこでおすすめなのが弁護士保険です。弁護士保険に加入することで、弁護士費用が補償されるためトラブル時の費用がかからないほか、簡単な相談であれば無料で行うことができたりします。※補償される詳しい内容は資料を御覧ください。
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