社員10人未満の会社でも就業規則を作成するべき10の理由と注意点
2018年05月14日 2023年05月10日
会社のルールを作るうえで欠かせないのが「就業規則」です。
社員が数名の会社であっても、就業規則を作らなければいけないのでしょうか?就業規則を作成することにはメリットがあるのでしょうか?就業規則を作成する際にはどのような点に気をつけたらよいのでしょか?
今回は、就業規則を作成するメリットや注意点について分かりやすく解説します。
そもそも就業規則を作る義務がある会社とは?
就業規則とは、「労働時間や給与などの労働条件や、職場内のルールを書面にしたもの」のことです。労働基準法第89条によると、「常時10人以上の労働者を使用する事業場」は、必ず就業規則を作成しなければいけません。
この「10人以上の労働者」には、正社員のほか、パートタイムやアルバイトも含まれます。
アルバイトが過半数を超える会社であっても、就業規則を作成する義務が生じます。たとえば、正社員が2名で、アルバイトが8名の場合であっても、就業規則を作らなければいけません。また、労働者が10人以上であれば、勤務時間の長さには関係なく、就業規則を作成しなければいけません。
たとえば、全ての社員が1日2時間しか働いていない場合であっても、就業規則の作成が義務付けられます。労働者が10人以上である場合は、あらかじめ就業規則を作成して、必ず労働基準監督署に届け出ておきましょう。
就業規則を作るメリット
従業員が10人未満の会社は、就業規則を作る義務はありません。労働基準監督署に届け出る必要もありません。
それでは、従業員が10人未満の会社であっても就業規則を作る意味はあるのでしょうか?効力やメリットはあるのでしょうか?
厚生労働省の指針では、「従業員が10人未満であっても就業規則を作成することが望まれる」とされています。従業員が10人未満の会社が就業規則を作成した場合は、労働基準法では「就業規則に準ずるもの」となり、法的にも有効なものとして扱われます。
また、就業規則を作成することには多くのメリットがあります。
①トラブルを未然に防ぐことができる
就業規則に残業や有給休暇に関するルールを定めておけば、労使間トラブルを未然に防ぐことができます。
労働者の意識が高まるに連れて、最近では残業代や有給休暇、不当な配置転換に関する裁判が増えています。その多くは、就業規則にきちんとしたルールが記載されていないことが原因となっています。
あらかじめ就業規則に労働条件について明記しておけば、労使間トラブルが発生するリスクを最小化することができます。
②トラブルが生じたときに迅速に対処できる
就業規則に指針を定めておけば、万が一トラブルが生じた場合に、迅速に対応することができます。
会社にまつわるトラブルとしては、セクハラやパワハラ、不当解雇や労働災害など、様々な種類があります。これらのトラブルのうち、裁判所に持ち込まれる案件はごくわずかです。
多くの場合は、会社内部での話し合いや、弁護士を通じて裁判外で和解することによって解決しています。
裁判外で迅速に解決するポイントとしては、「トラブルが起きた場合の対処法について就業規則にきちんとルールを定めておくこと」です。
たとえば、「パワハラに該当する行為をした者は降格又は解雇の対象とする」と定めておけば、パワハラを行った者に対して迅速に懲戒処分を行うことができます。会社が迅速に対応すれば、パワハラの被害に遭った人物としても、「就業規則に書いてあるとおりに会社がすぐに対応してくれたので、これ以上裁判所で争う必要はないだろう」と納得することができます。
トラブルが起きた際には、就業規則が解決の指針となることがあります。トラブルが深刻化する前に、あらかじめ就業規則を作成しておきましょう。
③風通しの良い職場づくりを実現する
会社の慣例やルールに関する質問は、社員にとっては質問しづらいことです。特に有給休暇や残業代などの労働者の権利に関する事項は、部下から上司に質問しづらく、遠慮しがちになってしまいます。
しかし、就業規則に大まかなルールが書かれていれば、社員が「このような場合はどうしたらいいのだろう」という疑問が生じたときに、上司に気軽に尋ねることができます。
たとえば、就業規則に「忌引き」という言葉が書かれていれば、従業員が「何日ぐらい休んでも大丈夫ですか」と尋ねやすくなります。就業規則は、あくまで「一般的なルール」を定めたものです。具体的なケースについて細かく記載することは必要はありません。就業規則に大まかなルールが書かれているだけでも、部下が上司に質問をするきっかけとすることができます。
職場のルールについて気軽に質問をすることができるということは、風とおしの良い職場づくりにもつながります。
④社員が安心して働くことができる
就業規則にセクハラやパワハラの禁止について定めてあれば、社員が「この職場で何かトラブルが起こっても会社が守ってくれる」と安心することができます。また、育児休暇や介護休暇について定めてあれば、「家族のことで何かあったときにもこの会社で働き続けることができる」という精神的保障を受けることができます。
労働者が安心して働くことができれば、会社への帰属意識が高まり、離職率の低下にもつながります
⑤職場の秩序が守られる
就業規則には、残業代などの労働条件だけでなく、「服務規程」についても定めることができます。服務規程とは、「身だしなみ等に関して社員が守らなければいけない最低限のルール」のことです。社員の髪型や服装を誤った方法で注意してしまうと、セクハラやパワハラとなるおそれがあります。
しかし、就業規則に記載があれば、就業規則を根拠として社員の身だしなみを注意することができます。
たとえば、服務規程として「業務に合わせた適切な服装を着用すること」と定めていれば、華美な服装をしている社員を注意することができます。また、身だしなみについてのルールが就業規則に定められていれば、社員が清潔感のある服装を心がけるようになり、職場の秩序を保つことができます。
⑥リスクマネージメントに役立つ
ソーシャルメディアの発達により、社員やアルバイトが顧客の個人情報を漏えいする事件が増えています。特にホテルや不動産業などのプライバシー性が高い業務については、社員による情報漏えいが深刻な問題となっています。
顧客情報を守るためには、社員研修を行って各社員の意識を高める事が重要です。
このとき、就業規則に「顧客の個人情報を漏えいした場合には懲戒処分の対象とする」と定めておけば、研修の際に就業規則を根拠とした説得的な説明をすることができ、社員の危機意識を高めることができます。また、就業規則に個人情報について定めがあれば、社員が顧客情報を取り扱うことに慎重になります。
個人情報は、一度漏えいしてしまうと取り返しがつきません。就業規則にきちんと個人情報の取扱いについて記載しておきましょう。
⑦トラブルが起きたときに会社を守ることができる
就業規則は、社員を守るためだけのものではありません。社員との間で労働トラブルが生じた場合に、会社を守る手段となります。
たとえば、ある社員が「自分だけ昇給が遅くて不当な差別を受けている」という不満を持って裁判所に訴えたとしても、就業規則に基づいて適切に昇給させていれば、会社に違法性が認定されることはありません。
反対に、このようなケースで就業規則を定めていない場合は、会社に責任が生じるおそれがあります。会社側が意図的に差別を行っていないとしても、会社の主張を裏付ける証拠が集まらなければ、会社側に違法性が認定されるおそれがあるからです。
就業規則は、いざというときに会社を守る手段となります。トラブルが起きてから作成しようとしても間に合いません。いざというときに会社を守るために、あらかじめ就業規則を作成しておきましょう。
⑧会議を効率化することができる
就業規則を定めていない場合は、問題が起きた際にそのつど話し合いを行わなければいけません。問題が深刻である場合は、会議を開いて対策を検討しなければならないため、通常の業務が滞ってしまいます。
職場のルールを就業規則に定めておけば、問題が起きた際にいちいち検討する必要がなくなります。就業規則に懲戒処分について定めておけば、社員が不祥事を起こした際に、ルールに則って処分をすることができます。
責任者を集めて会議を開く必要がないため、一般の業務が滞る心配がありません。
⑨些末な業務連絡を省くことができる
就業規則には、有給休暇や残業代に関するルールを定めることができます。新しく社員を雇うたびに、これらのルールを口頭で説明するとなると、煩雑な手続きとなります。
就業規則を定めておけば、「就業規則を確認しておくように」と伝えるのみで、細かいルールを説明する手間を省くことができます。また、口頭で説明すると間違った情報を伝えてしまうリスクがありますが、就業規則に記載しておけば、そのようなリスクを防ぐことができます。
⑩社員を増やすときに慌てて手続きをしなくてよい
社員を新しく採用して10人以上となった場合は、就業規則を作成する義務が生じます。しかし、新しく社員を採用するときには様々な手続きが必要となるので、新たに就業規則を作成することをつい忘れてしまうかもしれません。
また、「気が付いたら社員が10人以上になっていたが就業規則を作っていない」という状態になるおそれもあります。
「社員が10人以上になったら就業規則を作ればよい」と考えていても、そのときに就業規則のことを思い出すことができるとは限りません。社員が10人未満であっても、あらかじめ就業規則を作っておけば、社員が10人以上に増えたときに慌てて手続きをする必要がなくなります。
就業規則を作る際の注意点
社員に周知させなければいけない
就業規則は、職場でのルールを定めたものなので、社員全員に内容を知らせておかなければ意味がありません。
厚生労働省の指針としては、「一人ひとりに就業規則を配布することが望ましい」とされています。配布が困難である場合は、掲示板に貼り付けたり、すぐに閲覧できるように共有の棚に保管しておくなどの方法でも良いとされています。
ただし、「配布が困難な場合」とは、社員が多すぎて一人ひとりに配布することができないようなケースを指します。社員が10人未満の会社であれば、配布が困難であるとは認められにくいので、一人ひとりにメールや手渡しで就業規則を配布しておきましょう。
労働基準監督署長に届け出る
社員が10人未満の場合は、労働基準監督署長に届け出る義務はありません。義務ではないものの、書面を作成して届け出れば受理してもらえます。せっかく作成した就業規則なので、労働基準監督署長に届け出て、内容を確認してもらいましょう。
労働基準監督署長への届け出は、オンラインで簡単に手続きすることができます。
オンラインでの申請方法は、下記の厚生労働省のパンフレットを参考にしてください。
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000198541.pdf
あらかじめ労働基準監督署長に届け出ておけば、急に社員を10人以上に増員する必要が出た場合にも、慌てて手続きをする必要がなくなるので安心です。
専門家への相談がおすすめ
労務トラブルを未然に防ぐためには、適正な就業規則を作成することが重要です。もし自社の就業規則に不備がある場合、万が一労務トラブルが発生したときにには、労働者側に有利に働く可能性があるためです。トラブルが裁判に発展し会社側に非があると認められた場合には、相手に多額の支払いをしなければならないかもしれないし、従業員の問題行動が就業規則の範囲外である場合には、結果的に会社の損害につながるかもしれません。
しかし逆にいえば、適切に作成・運用される就業規則の存在は会社にとっては大きな安心材料となります。より安心できる就業規則を作成したり見直しをするには、法律の専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
労務トラブルを得意とする弁護士であれば、従業員とのトラブルを想定した内容の就業規則を作成することができるため、万が一従業員との労務紛争へと発展した場合にも、会社側が不利になりにくい環境をつくることができるでしょう。顧問弁護士や社労士を抱えている会社であれば、まずは彼らに相談してみましょう。
弁護士費用保険という、1つの予防法務
顧問弁護士をつけておけば、問題発生時に全てを引き受けてもらうことができるので安心ですが、費用面の問題で契約を足踏みしてしまう方も多いかもしれません。そんなときにおすすめなのが、弁護士費用保険です。
弁護士費用保険とは、車の保険や医療保険のように、月額費用を払って加入することで、弁護士へ相談・依頼する際に必要となる高額な弁護士費用を補償してくれる保険です。弁護士費用保険に加入しておけば、高額な費用の一部が保険金として受け取れるため、お金に関する不安が解消され、気軽に弁護士相談することができます。
弁護士保険のメリット
◎トラブルの早期段階で弁護士に相談できる
→誤った初期対応をとってしまうリスクを軽減できる
→事態の悪化を防ぐことにつながる
◎法的な手続きや交渉などを弁護士に代わってもらえる
→通常業務への支障を和らげることができる
→担当者の精神的ストレスが軽減される
弁護士保険に興味をお持ちの方は是非こちらをご覧ください。補償内容や必要性について詳しくご紹介しています。
最後に
社員が10人未満の会社は、就業規則を作成する義務はありません。しかし、就業規則を作成しておけば、労使間トラブルを未然に防ぐことができます。
いざトラブルが生じた際にも、就業規則があればルールに則って粛々と対応することができるため、迅速にトラブルを解決することができます。就業規則を作成することは、社員を守るだけでなく、会社を守ることにもつながります。多くのメリットがありますので、社員が10人未満の会社であっても就業規則を作成しておきましょう。
労務トラブルに関する予備知識をつけておきましょう
就業規則作成時に法律のプロに相談すれば安心ですが、まずは想定される労務トラブルについて、経営者や人事担当者が知っておくことも重要です。
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