事業買収や会社分割には、従業員の統合や移籍が避けられません。
その際には、従業員に対して適切なケアを行うことが非常に重要なこととなってきます。法令順守を心がける健全な経営者にとって、「М&Aの際の従業員のケアの重要性」を正しく理解しておくことが、経営上の欠かせない事柄と言えるでしょう。
本記事では、会社分割に伴って従業員の地位確認が争われた判例を通して、経営者が知っておきたいことを確認してみます。
判例の紹介:労働者の地位確認請求が『棄却』された事案
■事案の要旨
コンピューターの製造販売会社にて、一部の事業が分割され、新設会社がその事業を承継することとなった。これに伴い、新設会社に移籍することとなった労働者らが、会社分割は労働者に対する不法行為に当たるとして、雇用契約上の地位確認を求めた。
■判決
【第一審】
労働者の地位確認請求を『棄却』した。
【第二審】
一審同様の判断を下し、労働者の控訴を『棄却』した。
■判決のポイント
●判決のポイント
【第一審】
労働契約承継法などには、「会社側は会社分割に当たり、労働者の理解と協力を得るよう努めるものとする」という趣旨の規定があるが、これは努力義務であり、会社側がこの努力や協議を全く行わなかった場合にのみ会社分割が無効となりうる。
【第二審】
会社分割の無効、または労働契約承継が無効となるには、一部の労働者だけでなく多数の労働者の著しい不利益を伴う場合に限られる。
判例から学べること
労働者の地位確認請求が退けられた判例を見てみましたが、このことから学べることがいくつかあります。
①まず、地位確認請求とは、労働者としての地位を確認するための訴訟のことで、労働者はこのような訴えを起こすことができます。
②一方、会社側には、会社分割に際して、労働者の理解と協力を得る努力や協議を行う必要が生じます。
③ただ、これは会社側の努力義務となっているので、これを全く行わなかったなどの事実がなければ、会社分割の妥当性が認められるようです。
④また、会社分割によって、どれだけ多くの労働者にどれだけ大きな不利益が及んだのかという点も、判決の判断材料となるようです。
経営者が気を付けたいこと
①今回の判例では、労働者の訴えが棄却されましたが、М&Aの際には、会社として「十分な協議や説明をした状態」にしておくことが必要なのは間違いありません。
②裏を返すと、こうした努力を怠った場合には、労働者の地位確認請求が認められる可能性があることを認識しておきましょう。
③判例からもわかるように、従業員の関心事項は、自身の雇用や待遇などの維持であることが多く、もしもこれを変更せざるを得ない場合には、個別に話し合いの場を設けて丁寧に協議することが望ましいと考えられます。
④従業員への十分なケアがなされなければ、不安を感じた従業員が退職してしまうことも考えられ、人材の損失にもつながりかねません。また、そうした人材の損失がМ&Aの計画そのものに影響を及ぼしてしまうことも考えられます。
⑤一般的には、М&Aについて従業員へ説明をするタイミングも重要だとされています。役職ごとにタイミングを分けたほうが良いようです。
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