経営者が知っておきたいモンスター社員の対応方法:判例から考える、「即刻解雇」は難しい

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経営者にとって、社員の教育や管理は非常に重要な業務の1つです。従業員が労働環境に満足するかどうかは、パフォーマンスの向上にもつながりますし、それだけでも勤続年数が長くなることにつながるでしょう。しかし、経営者がいくら気を払っていても“ある一部の従業員”をコントロールするのは非常に難しいです。それが、自分の都合を会社に押し付けてくる「モンスター社員」。問題を解決しようと、冷静かつ論理的に話し合いを行おうとも、モンスター社員と呼ばれる層にはなかなか響かず、最終的に解雇を考える経営者も少なくはないでしょう。しかし、解雇というのは最終手段であり簡単にできる行為ではありません。この記事では、実際に行われた裁判の判例を確認しながら、モンスター社員に対する対応方法を考えていきます。

妊娠が理由の解雇かどうかが争点の裁判の判例(ネギシ事件)

正社員12名、パート12名ほどの小規模な会社A社の検品部門で働いている、Zさんの解雇が不当かどうかを問う裁判です。中国籍の女性社員Zさんは、検品部門にてパートさんたちを指導・管理する役割を担っていました。後にZさんはの妊娠が判明、これについては会社も認識をしていたものの、数カ月後にA社はZさんに対して解雇を言い渡します。この解雇について、Zさんは「妊娠を理由にする不当な解雇だ」と裁判を起こしました。裁判ではA社は「解雇理由は妊娠を理由にするものではなく、勤務態度や協調性にかける人間関係の問題だ」と反論。地方裁判所では、「勤務態度の問題が事実として認められない」と判断しZさんの解雇は不当であり無効という判決を下しました。

しかし、A社が控訴を行い裁判は最高裁までもつれることに。最高裁では地方裁判所での判決から一転、「妊娠中であっても解雇理由は妥当」との判断がされ、解雇は有効であるという判決が下されたのです。

懲戒解雇が正当かどうか?社員側が地位確認を求めた裁判の判例(出張旅費不正請求事件)

出張における旅費の不正利用に関する事件の判例です。電話事業者B社に勤務するYさんは、出張の際の旅費を会社に対して申請していました。約3年間に渡って申請した費用は約171万円。しかし、日報の記載と申請額の差異あったため、過大請求だと判断。B社は、修正の上再申請するよう求めました。その結果、正確な旅費は80万円で、残りの91万円はよう不正請求・私的流用であることが発覚。本人もこれを認めたため、B社はYさんを懲戒解雇しました。

しかし後に、Yさんは「不正請求・私的流用はなかった」と主張。雇用契約上の地位確認、未払賃金等の支払を求め裁判を起こしました。地方裁判所では、出張における旅費が他の担当と比べてあまりにも高額であること、始末書で事実を認めた点などを考慮して「不正請求・私的流用があったと考えられる」と認定。さらに、同様の不正を行ったものが出勤停止処分だけだったことに対して、懲戒解雇されたのは不公平だというYさんの主張に対しても「Yさんを含めた私的流用を認めた4人に対しては全員が懲戒解雇処分を受けた」事実があるため、懲戒権の濫用には当たらないと判断。いずれの訴えも棄却されました。

これらの2つの判例からわかる解雇に関する問題

上記2つの判例から分かるように、モンスター社員が問題を起こしたからとはいえ、よほどのことがないかぎり「即刻解雇」という決断を下すことは難しいことが」わかります。特に「ネギシ事件」のような問題は非常に難しく、先の判例では会社側の主張が認められていますが、地裁と最高裁で判決が180度変わったことがわかりますよね。通常、人間関係や協調性に問題があり解雇する場合では、その事実を証明する始末書等が必要になりますが、この事件では小規模な会社であったため、そういった書類等なかったため地裁では元社員側の意見が認められたと考えられます。一方で最高裁は、元社員の態度が原因でパートが退職している事実、会社が口頭で指導をした事実などの実態をみての判断だったようです。こう考えると、この判決は紙一重だったようにも考えられます。いずれにせよ、即刻解雇にできるかどうかの判断は、同様のケースで行われた過去の裁判判例が1つの基準になりそうです。

どうすればいい?モンスター社員への対処法

モンスター社員とはいえ、即刻解雇というのは非常に難しいのが実情。徐々に段階を上げての処分を下し、最終手段として「解雇」という手を使うことを覚えておきましょう。

まずは、注意指導。口頭での注意を行った後、改善されない場合は書面やメールでの注意指導を行うのが大切。これは「注意指導を行った」という事実を証拠として残すためのポイントにもなります。次に、始末書等の書類を提出させること。注意喚起や指導での改善が見られない場合は、問題に対する始末書や今後同様の問題を起こさない旨を記した誓約書が有効。提出された事実があれば、社員側も問題があったことを認めたという証拠になります。もしも、提出に同意がない場合は、その事実もデータとして残しておき会社としての立場や対応を行ったことを証明する証拠として保持しておくべきでしょう。

次の段階が、「配置転換」。会社側が社員に対して配転を行う権利を持っている契約であり、権利の濫用に該当しない場合、配転は「会社側が社員の雇用維持を図るために努力をした」ことを証明する行為とみなされます。小規模会社のため配転先がない、もしくは配転が拒否された場合は懲戒処分を検討しましょう。この場合は「戒告・譴責」「減給」「出勤停止」「降格」などが考えられます。就業規則や法律に沿って、理由が正当であることを証明できる書類等を作成した上での処分を行ってください。それでも改善が見られないのであれば退職勧告を行い、会社と従業員側が合意の上での自主退職を目指すことになります。しかしこの場合でも、不当な条件での退職を迫ったり、執拗な勧告はハラスメントに認定される可能性があります。可能な限り、モンスター社員に寄り添った対応を行うことがポイントとなるでしょう。そして、最終手段として「解雇」という形を考えることとなります。

紹介した判例のように、解雇を行った場合裁判で争う可能性も高くなってきます。先のステップを照らし合わせ「これまで注意を行ったが改善が見られなかった」ことを証明した上、懲戒権の濫用にならないよう慎重に判断を行ってください。


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