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経営者が知っておくべき競業避止義務vs職業選択の自由:判例に学ぶ合理性の重要性

2021年02月28日 2023年05月10日

裁判・訴訟 雇用・労働・従業員 企業法務・法律
#競業避止義務 #退職金 #職業選択の自由 #判例
経営者が知っておくべき競業避止義務vs職業選択の自由:判例に学ぶ合理性の重要性

競業避止義務とは

競業避止義務とは、被雇用者が所属する(あるいはしていた)企業と競合に当たる企業や組織に属したり、自らそうした会社を設立したりといった行為を禁ずるために課す義務のことです。

入社時に取り交わす誓約書や、就業規則内の競業禁止特約によって定められ、所属する企業の不利益となる競業行為を禁ずるものです。企業によっては、義務に違反した場合の罰則として、退職金の支給制限や損害賠償請求、競業行為の差止め請求を取り決めているところもあります。

なぜこのような義務を従業員に課すかという背景としては、従業員が競業行為を行うことによって、所属している企業内の機密が漏洩したり、ノウハウが伝播したりしてしまうことを避けたい企業側の思惑があります。

ただし、日本国憲法第22条第1項においては、「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」と規定されており、国民の職業選択の自由を保障しています。競業避止義務を課すことは、行き過ぎると職業選択の自由を過剰に制限してしまうことになりかねません。

このため、競業避止義務の有効性については、しばしば従業員と企業の間で訴訟に発展することもあります。以下、実際の判例を見ながら、競業避止義務の有効性について検討していきます。

アメリカン・ライフ・インシュアランス・カンパニー事件

本件は、外資系保険業者であるアメリカン・ライフ・インシュアランス・カンパニー日本支店(以下「アリコ社」といいます。)の元執行役員の男性が、同社を退職時に、競業避止義務に違反したとして退職金が支払われなかったことに対し、退職金支払いを求めて提訴した事件です。

この男性は、2009年6月にアリコ社を退社し、翌月に別の生命保険会社に転職したことから、アリコ社は入社時の誓約書に記載があった退職金不支給条項に基づき、退職金を支給しませんでした。

東京地裁は、まず原告の労働者性については、在職中に金融法人本部の本部長と執行役員を兼務していたが、アリコ社の「執行役員」は経営者に類する立場とはいえず、

原告は労働者性を有すると判断しました。その上で、

  • 原告の退職前の地位は相当高度ではあったが、長期にわたる機密性を要するほどの情報に触れる立場にあったとはいえない。
  • 競業避止条項を定めたアリコ社の目的はそもそも正当な利益を保護するものとはいえず、競業が禁止される業務の範囲、期間、地域はあまりに広く、代償措置も十分とはいえない。

と判断し、「本件における競業避止義務を定める合意は合理性を欠き、労働者の職業選択の自由を不当に害するものであると判断されるから、公序良俗に反するものとして無効である」として、原告の退職金支払い請求を認めました。

※以上、公益社団法人全国労働基準関係団体連合会の判例掲載より一部抜粋
https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/08917.html

判決結果の解説

判例は、規定自体の評価及び当該競業避止義務契約の有効性を判断するにあたり、以下の6点を考慮しています。

  • 守るべき企業の利益があるかどうか→競業避止義務契約の内容が、目的に照らして合理的な範囲に留まっているか
  • 従業員の地位が、競業避止義務を課す必要性が認められる立場にあるものといえるか
  • 地域的な限定があるか
  • 競業避止義務の存続期間
  • 禁止される競業行為の範囲
  • 代償措置が講じられているか

※平成24年度経済産業省委託調査「人材を通じた技術流出に関する調査 研究」の有識者による委員会資料より抜粋https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/handbook/reference5.pdf

本件では、アリコ社の「執行役員」は経営者的な立場とは言えず、原告に機密性の高い情報に触れる機会はなかったとしています。また、転職後は、アリコ社に在職中の業務とは異なる業務に携わっており、実害が生じたとは認められません。したがって、上記①②については該当しないと言えます。

また、③④⑤に関しても、転職先が同じ業務を行っているというだけで転職自体を禁じるのは広範すぎる制限であり、禁止期間も相当でないとし、本件競業避止義務条項は職業選択の自由を不当に害していると言えます。

なお、⑥については、原告の在職中の賃金をもって代償措置が取られているとは言えないという判断をしています。

事件から導き出される示唆

企業としては、優秀な人材の流出やノウハウの散逸は避けたいところではありますが、上記で見てきたとおり、競業避止義務は、ただ設ければいいという訳ではなく、一定程度の合理性が求められます。

現在、就業規則などで競業避止義務を設けている経営者の皆さんは、再度検討してみることをお勧めします。


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