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経営者が知っておきたい判例から考える育児休暇の重要性

2021年01月31日 2023年05月09日

雇用・労働・従業員 企業法務・法律
経営者が知っておきたい判例から考える育児休暇の重要性

育児休業とは、子供を育てる労働者が法律に基づいて取得できる休業のことですが、その際経営者が気をつけなければならないことがあります。こちらの記事では二つの判例を元に解説。経営者がとるべき対応を考えていきます。

【事案1】男性看護師の育児休業取得を理由とする職能給昇給停止等の効力が争われた事案

■事案の要約 
(1)看護師として勤務していた原告は、3ヶ月以上の育児休業を取得した。病院を運営している被告は、就業規則に基づき、原告の職能給を昇給させず、さらに昇格試験の受験資格を認めなかった。原告は、これらの行為が育児介護休業法10条により禁止される不利益取り扱いに該当し、公序良俗に反する違法行為だとして、被告に対して損害賠償を求めた。

■裁判の結果
原告側の勝訴。京都地裁は、昇格試験受験の機会を与えなかった行為のみ不法行為に当たるとした。その判決に対し、原告が控訴したところ、大阪高裁は、昇給させなかったことも不法行為に当たるとなり、損害賠償の支払いが認められた。

■判例のポイント 
・育児介護休業法10条は、事業主は、労働者が育児休業を取得したことを理由にして解雇その他不利益な取り扱いをしてはならない旨を定めている。また、事業主において、不利益な取り扱いが育休法によって保障された育休取得の権利を抑制したり、他に保障された権利が失われる場合は、公序に反する。

・本件の不昇給規定(就業規則)は、1年のうち4分の1にすぎない3ヶ月の育児休業により、他の9ヶ月の就労状況いかんにかかわらず、職能給を昇給させないというもの。これは、休業期間を超える期間を職能給昇給の審査対象から外し、休業期間中の不就労の限度を超えて育児休業者に不利益を課すものだ。そして、育児休業を私傷病以外の他の欠勤、休暇、休業の取り扱いよりも合理的理由なく不利益に取り扱うものである。

・これは、人事評価制度に照らしても合理性を欠くもので、育児休業取得者に無視できない経済的不利益を与える。そして、育休取得を抑制するものでもある。よって公序に反し、無効というべきである。

判例の詳細はこちらから
https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/08988.html

【事案2】育児休業後の復職拒否・退職強要または解雇の違法性が争われた事案

■事案の要約
育児休業を取得した原告(労働者)はその後、被告(経営者)に解雇された。原告は、男女雇用機会均等法9条3項及び育休法10条に違反しているとし、労働契約上の権利を有する地位にある確認と、解雇された後の賃金の支払い、そして損害賠償金の支払いを求めた。

■裁判の結果
原告(労働者)側の勝訴。本件解雇は無効、そして損害賠償の支払いが言い渡された。

■判例のポイント
・妊娠・出産や育児休業の取得を直接の理由とする解雇は法律上はっきりと禁じられている。そのため、労働者の妊娠等と近接して解雇が行われた場合でも、事業主は少なくとも外形的には、妊娠等とは異なる解雇理由の存在を主張するのが通常であると考えられている。

・この判例の場合、事業主は外形上、妊娠等以外の解雇事由を主張している。しかし、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当ではないことを認識している。よって、均等法9条3項及び育休法10条に違反したものとみることができる。

・本件解雇は、妊娠等に近接して行われている。事業主が労働者の復職の申し出に応じず、退職の合意が不成立になった挙句、解雇したという経緯からしたら、育休終了後8ヶ月が経過していても時間的に近接しているとの評価は正当だ。

判例の詳細はこちらから
https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/09184.html

二つの判例から考えるべきこと

育児 ・ 介護休業法第 10 条等では、育児休業等の申出・取得等を理由とする解雇その他不利益な取扱い を禁止しています。

〈育児・介護休業法第10条〉
事業主は労働者が育児休業の申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇、その他不利益な取り扱いをしてはならない。

※育児休業の他、介護休業、子の看護休暇、介護休暇、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、所定労働時間の短縮等の措置について申出をし、又は制度を利用したことを理由とする解雇その他不利益な取扱いについても禁止

判例は二つとも、労働者側が勝訴しています。注意すべきは、二つ目の判例の、解雇に近接した期間に育休を取得している従業員は、直接的に育休を理由に解雇されたわけではないということです。少なくとも外形的には、異なる解雇理由を主張していても敗訴しています。

形式上、妊娠等以外の理由を示しさえすれば、均等法及び育休法の保護が及ばないとしたのでは、この法律の実質的な意義は大きく削がれてしまいます。妊娠等を実質的な、あるいは、隠れた理由とする解雇に対して何らの歯止めにもならないとすれば、労働者はそうした解雇を争わざるを得ないことなどにより大きな負担を強いられることは避けられないからです。

育休を理由に解雇したり、不利益な取り扱いをすることは違法です。改めて適切に法を守れているかどうかを確認しましょう。


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