
専門性の高い企業ですと、従業員がその専門性を基に、退職後に、事業を始めたりするケースは多いでしょう。ただし、それは、退職された企業にとっては、経営リスクということが出来ます。実際に、過去の判例では、どのように判断されているのでしょうか?
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平成22年3月25日判決をされた通称:機械部品製造会社事件
金属工作機械部分品の製造等を業とするX会社を退職後の競業避止義務に関する特約等の定めなく退職した従業員が,別会社を事業主体として,X会社と同種の事業を営み,その取引先から継続的に仕事を受注しました。
それが、X会社にとっては、不法行為にあたるのではと裁判になりました。
結果として、この訴えは退けられることになり、退職した従業員は特にお咎めを受けることはありませんでした。
判決の詳細はこちらから
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/022/080022_hanrei.pdf
社会通念上、自由競争の範囲を逸脱したかどうか?
この裁判を通じて問われたのは、「社会通念」という言葉に象徴されるように、程度として、許容されるかどうかという点でした。
裁判では、
元従業員等の競業行為が,社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態
様で元雇用者の顧客を奪取したとみられるような場合には,その行為は元雇用者に対する不法行為に当たるというべき
と規定した上で、
①X会社の営業秘密に係る情報を用いたり,その信用をおとしめたりするなどの不当な方法で営業活動を行ったものではない
②元従業員が立ち上げた事業があったとしても、自由な取引が阻害された事情はうかがわれず,上記従業員においてその退職直後にX会社の営業が弱体化した状況を殊更利用した訳でもない
と判断されました。
そもそも、競業避止義務とは
今回のケースでは、「競業避止義務に関する特約等の定めなく」とありましたが、そもそも競業避止義務とは何でしょうか。
競業避止義務は、以下をされています。
①在職中に使用者の不利益になる競業行為(兼職など)を行なうことを禁止すること
②一般の企業において、従業員の退職後に競業他社への就職を禁ずることを定めた、誓約書や就業規則に含まれる特約(競業禁止特約ともいう)
②については、個々のケースにより判断されるべきものとされ、今回、ご紹介した判例では、「社会通念上、自由競争の範囲を逸脱したかどうか?」「不当な方法で営業活動を行ったかどうか」が焦点にされました。
こちらは、仮に、競業禁止特約を締結していたとしても、合理性がないと判断される特約については無効の判断がされることがあり、今回の判例も、まさにそのケースに当たると推測されます。
競業避止義務で縛り切れない可能性があることを承知した上で、いかに優秀な社員を競合としないようにするかを考えた方がいい
経営者としては、出来るだけ、競業禁止特約を締結して、従業員が競合になるリスクは抑える方が良いです。
とはいえ、上記のケースで見たように、合理性がないと判断されるケースもあり、縛り切れないことを前提として、いかに優秀な社員・従業員と長く一緒に働けるかという視点で考えることが推奨されると言えるでしょう。
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