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予約の無断キャンセルへの対応方法(経営者向け):判例から学ぶ教訓と自衛策

2020年11月15日 2023年05月09日

裁判・訴訟 顧客トラブル
#無断キャンセル
予約の無断キャンセルへの対応方法(経営者向け):判例から学ぶ教訓と自衛策

コロナ禍で厳しい状況に置かれている飲食店などにとって大きな悩みの種のひとつとなっているのが「キャンセル問題」。

マスメディアでも近年、頻繁に取りざたされるこの問題は、予約の無断キャンセル、あるいは直前のキャンセルなどが要因で、仕入れ品や用意した料理が無駄になることはもちろん、直前や無断のキャンセルでは、新規の予約やお客様も望めず、大きな損害をこうむることになります。問題解決のとりかかりとして、このような事態を事前に防止する、あるいは起きてしまった問題にどのように対処すればよいかをまとめました。

実際にはどのようなキャンセル問題が発生しているのか

損害賠償請求が認められた件の例をいくつか挙げます。

新宿の歌舞伎町のバーに若い女性から電話があり、店の貸し切り、1名につき3,480円相当のコース料理40人分の予約が入りました。しかし、当日になっても予約客は現れず、電話をしてきた若い女性に連絡がついたのは深夜。担当者から折り返すとの返事をしたまま音信不通となってしまいました。店側は女性に対し損害賠償を申し立て、2018年に東京簡易裁判所は女性に対し13万9200円の支払いを命じました。

また、栃木県の那須塩原市や日光市などでは、宿泊予約の無断キャンセルが相次いぐいう問題が起こりました。これに対し、キャンセルの被害を被った8つの施設が訴訟を起こし、千葉県の男女3人にキャンセル料などの損害賠償を求めました。宇都宮地方裁判所大田原支部の裁判官は原告の主張を認め、予約を入れた男性2人に対し、請求通り計約280万円の支払いを命じるという判決が下りました。

さらに、刑事事件に発展した例もあります。都内の飲食店にスズキと名乗る人物から17名で1人当たり1万3000円の予約の電話がありました。しかし、当日無断キャンセルとなり、その後の確認で系列店4店に対して同様の予約無断キャンセルがあったことが判明したため、飲食店は警視庁に被害届を提出しました。警視庁は職業不詳の男(59)を偽計業務妨害容疑で逮捕しました。

判例から得られる教訓とは

これまで、キャンセル問題については店側の泣き寝入りという例が多く見受けられました。理由としては、問題を起こすことで利用者からマイナス評価を受けることにより、今後利用してもらえなくなる、あるいは、事実とは異なることも含めた悪意のあるウワサなどを流布されることで、店の評判が落ちるなどを恐れることが挙げられます。しかし最近では、悪質な例が相次いでいること、ニュースになり、利用客からの理解を得られることなどを理由に、対抗措置を講じる例も出てきています。

前述の例で刑事事件に発展した件は、以前の店側の対応への不満から、故意に偽の予約を入れるという嫌がらせを行った例です。

このため、泣き寝入りしないという対応も大切になってきます。一方で、忙しい業務の合間をぬっての訴訟に係る手間や煩雑な手続きの割には、得られる金額は見合うものになるとは限らないことなどもあり、今後も引き続き訴訟には至らない例も少なからずあることは容易に想像がつきます。

ただ、どのような例なら訴訟を起こすに値するかの判断も必要になってきますので、参考として経済産業省示す「損害賠償の考え方」の要約を示します。

No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポートと題されたこの文書では、以下のように記されています。

一般的に、キャンセルによって顧客側が飲食店側に対して何らかの損害を与えたのであれば、債務不履行や不法行為に該当する。どちらに該当する場合でも、飲食店側は顧客側に対して損害賠償を請求することが可能 であると考えられる(民法 415 条、709 条)。

キャンセル料に関する損害賠償請求にあたっては、発生した損害額の算定や、適切なキャンセルポリシーの設定、損害額の算定が必要となる。

(1)「キャンセル」に対する損害賠償の考え方
一般的に、飲食の提供契約は、予約方法が何であるかに関わらず、内容が確定していれば、その時点で契約は成立すると考えられる。契約の内容が表示されるネット予約はもちろんのこと、口頭のみの電話予約であっても、契約は成立することがある。この場合、一方的な「キャンセル」に対して損害賠償を請求することが可能であると考えられる
一方で、契約の内容が確定していないと考えられる場合でも、消費者の一方的な「キャンセル」に対し、不法行為に基づく損害賠償を請求することは可能であるものと考えられる。

(2)事前キャンセルにおける損害賠償の考え方
事前のキャンセルであっても、それによって顧客側が飲食店側に対して何らかの損害を与えたのであれば、債務不履行や不法行為に該当する可能性がある。どちらに該当する場合でも、飲食店側は顧客側に対して損害賠償を請求することが可能であると考えられる。ただし後述する通り、個別の事例毎に、発生する損害の事由や程度、時期等が異なるため、個別の事例毎に損害賠償額も異なると考えられる

(3)No show におけるキャンセル料(損害賠償額)算定の考え方
考え方は大きく2通り存在する。どちらの場合も、No show の場合、発生した損害を別の顧客で埋め合わせる(再販する)ことが著しく難しいという点が考え方の大前提である。また、No show の場合、飲食店側は、時間に遅れて来店するかもしれない顧客のために席を確保していることが多く、予約時間後の平均2~3時間後まで(もしくは閉店まで)の機会損失が生じていることも考慮するべきである。

このような指針を参考に、訴えを起こすかどうかを考えてみることも重要でしょう。

さらに詳しく知りたい場合は全文を参照してください。
https://www.meti.go.jp/press/2018/11/20181101002/20181101002-1.pdf

今後に向けて有効な自衛策とは

訴訟を起こすか否かにかからわず、多大な被害を被るキャンセル問題に対し、手をこまねいているわけにはいきません。今後の自衛策としてどのようなことがあるのか、考えてみましょう。

そもそも、無断や直前のキャンセルがなぜ発生するかという背景ですが、利用者の意識やモラルの問題が挙げられます。インターネット予約などで簡単に予約ができるようになったことは、利便性があがる一方で、うっかりダブルブッキングをしてしまった、念のため複数予約をしたが最終確定後に候補外となった飲食店に連絡するのを忘れてしまった、という悪意のないものから、わかってはいたが、つい面倒で連絡を入れなかったなどという、モラルに欠けるもの、そして、前述のように被害を与えるための悪意をもったものまで、さまざまです。

悪意のあるものについては、避けることは難しいとしても、うっかりミスなどの問題は回避の手立ては少なからずあります。飲食店自体はもちろん、利用したかったけれど利用できなかったという利用者側の不利益を避けるためにも、対策を講じましょう。

インターネット予約システムの完備

電話での口頭の予約に対し、メールアドレスや予約そのものの履歴が残るインターネット予約は、トラブルが起きたときの証拠としての有効性を持ちます。独自のシステムであれ、既存のシステムを利用する形であれ、導入を検討する必要性は高まっていくと思われます。ダブルブッキングなどの人為的ミスを避ける意味合いもあります。

キャンセルポリシーの確立と周知

キャンセルそのものが必ずしも悪いわけではありません。やむを得ない事情ももちろんあるでしょう。飲食店側がキャンセルポリシーを明確に定め、店舗の公式なウェブサイトやSNSなどに明示することにより、無用のトラブルは減らせます。また、電話での予約などに対しても、口頭であっても明確に伝えることが大切です。

予約確認

当然のことながら、予約が入った時点で、予約者の連絡先、希望などを復唱して確認することは重要です。さらに、予約日以前に予約の確認を入れる旨を利用者に伝え、予約当日以前に、最低でも前日に1回は予約内容の確認を行うことでトラブル発生を未然に防ぐこともある程度可能です。

トラブル発生時の対処

不幸にもキャンセル問題が発生した場合でも、打つ手がないとは限りません。もちろん、あくまでも有効性の保証のない善後策ではありますが、SNSなどで顧客に対し呼びかけることもひとつの手段です。被害にあった旨を伝えるとともに、条件などを明確に提示することで、善意の顧客から救いの手が差し伸べられる例も見受けられます。

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