パワハラの定義と防止のための取り組み【経営者・マネジメント層向け】
2020年11月16日 2022年12月05日

職場におけるいじめや嫌がらせなどのパワーハラスメント。昨今、都道府県労働局などへの相談件数が増加の一途を辿っており、具体的な事例がメディアでも取り上げられるなど、社会問題として関心が高まっています。健全な職場環境づくりを求められる経営者にとって、パワハラは無視できない問題です。そこで、こちらの記事では、パワハラの概念を整理するとともに、パワハラにまつわる訴訟の判例をご紹介します。
パワハラの定義と具体的な行為の6類型
まず、パワハラについて理解を深めるところからはじめましょう。パワハラの概念が曖昧な方も少なくないかもしれませんが、実は「改正労働施策総合推進法」により、次の3つの要素をすべて満たすものと明確に定義されています。
「職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの」
では、それぞれ細かく見ていきましょう。
「①優越的な関係を背景とした言動」ですが、たとえば職務上の地位が上位の者による言動や、同僚または部下など抵抗や拒絶が困難な集団による言動などが挙げられます。いずれにしても、抵抗や拒絶ができない確実性が高いと認められる関係が背景にあっての言動と言えます。
「②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」については、業務上明らかに必要性のない言動や業務の目的を大きく逸脱した言動などが該当します。ただし、何をもって「相当な範囲を超えた」とするかは、言動の目的や言動を受けた労働者の問題行動の有無なども踏まえて、社会通念に照らし合わせ、総合的な考慮が必要な要素になります。
「③労働者の就業環境が害されるもの」は、「①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」によって、労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなり、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、就業上で看過できない程度の支障が生じることを指します。
このパワハラの定義に従って、厚生労働省の「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」 において、パワハラに該当する行為が6類型に整理されました。
①身体的な攻撃…蹴ったり、殴ったり、体に危害を加える
②精神的な攻撃…脅迫や名誉毀損、侮辱、ひどい暴言など精神的な攻撃を加える
③人間関係からの切り離し…隔離や仲間外れ、無視など個人を疎外する
④過大な要求…業務上明らかに不要なことや遂行不可能な業務を押し付ける
⑤過小な要求…業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じたり、仕事を与えない
⑥個の侵害…私的なことに過度に立ち入る
3つの判例からパワハラの実態を知る
続いて、実際に起きたパワハラの裁判について、事案の要約と判例、をご紹介します。
知っておきたい判例①
■事案の要約
・医事課課長として勤務していた原告が、病院の事務次長Aからパワーハラスメントを受け、さらに事務長Bおよび庶務課長Cが適切な対応を取らなかったことで、適応障害、睡眠障害等を発症したと主張。損害賠償を求めた。
■判例の要約
・原告の主張が認められ、損害賠償が成立。
■判例のポイント
・事務次長Aの日常的な「人格を否定する暴言、机を叩く、大声で怒鳴る、会議の場や他の職員の面前で長時間執拗に非難する」などの行為がパワハラと認められた。
・事務長Bおよび庶務課長Cについても、会議の場において事務次長Aが原告に対して暴言を吐いているのを止めることもせず、注意や指導などの適切な措置を取ることはなかった。両名は、パワハラ防止の意識が皆無であり、安全配慮義務違反があったと認められた。
判例の詳細はこちらからhttps://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/672/089672_hanrei.pdf
知っておきたい判例②
■事案の要約
・原告は被告である上司Aからパワハラを受け、うつ病になり退職を余儀なくされたと主張。損害賠償を求めた。
■判例の要約
・原告の主張が認められ、請求額の一部で損害賠償が成立。
■ポイント
・上司Aのパワハラについて、原告を「ガンウイルス」と呼ぶなど、業務指導の範囲を逸脱した人格や人間性を否定するような言動や、達成困難なノルマを課すなどの行為を行ったことが認められた。
・会社もパワハラ行為について調査を行うなど一定の対応をしているとはいえるものの、労災認定がされるまでパワハラとは判断しなかったことから、結果的に対応が不十分だった。
判例の詳細はこちらから
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/422/087422_hanrei.pdf
知っておきたい判例③
■事案の要約
・パワハラで自殺したAの父母が、先輩従業員のBとCの長期間にわたるいじめやパワハラにより、強い心理的負荷を受けてうつ状態に陥り、自殺するに至ったと主張し、損害賠償を求めた控訴審。
■判例の要約
・BとCの不法行為、会社に安全配慮義務違反が認められ、損害賠償が成立。
■判例のポイント
・Aを頻繁に呼び出して「てめえ」「あんた、同じミスばかりして」などと、厳しく威圧的な口調で叱責。また、被告側は叱責の時間は「10分くらいであった」との供述に対し、同僚は「本来であれば5分で済むようなことなのに1時間近く同じことを何回も繰り返していた」と述べるなど、長時間にわたることもあったことを認めた。
・会社は安全配慮義務違反がないと主張していた。しかし、Aが業務遂行するためには、会社の支援が必要な状況にあったにも関わらず、BとCの叱責行為などについて制止・改善を求めなかったことから、安全配慮義務違反に該当すると判断。
判例の詳細はこちらから
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/566/087566_hanrei.pdf
パワハラ防止のために経営者が心得るべきこととは
すべての職場や企業にとって、パワハラは無縁ではなく、いつ起こるともしれない問題です。では、パワハラを防止するために、経営者はどのような対策に取り組めばいいのでしょうか。
公益財団法人21世紀職業財団が公開している「職場のパワーハラスメント対策ハンドブック」に記載されている内容の一部を、次にまとめました。
①トップのメッセージ
…企業として「職場のパワハラはなくすべきものである」という方針を明確に打ち出す。
②ルールを決める
…就業規則などの文書に、「パワハラ行為をしたものについては厳正に対処する」など懲戒規定等の対処方針を定める。
③実態を把握する
…アンケート調査などで職場の実態を把握する。
④教育する
…従業員を直接指揮監督するマネジメント層向けの研修と、一般従業員の気づきを促す研修などを定期的に実施する。
こうした対策の他にも、管理職に対しては「自分がパワハラの行為者になる可能性」を顕在化させるために、チェックリストを作成して配布するのも有効です。
最後に
すべての従業員は、会社の成長と発展を支えてくれる貴重な「人財」です。そして、パワハラ行為をする人物に気づきと改善を促すこと、パワハラを受けている人物のサポートをすることは、経営者の重要な役割ではないでしょうか。弁護士費用保険の教科書Bizでは、すべての経営者の皆さまに、有用な判例を紹介していきます。
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