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パワハラやセクハラの現場に出会ったことはありますか?そんな時の慰謝料とはどのような仕組みになっているのでしょうか?齊藤弁護士に過去の事例をもとに相場観などを伺います。
パワハラとセクハラの慰謝料の相場
今回は齊藤弁護士にお越しいただき、事業者に関わるトラブルと経営者の個人に関わるトラブル、それぞれの慰謝料の相場についてお伺いしたいと思います。
よろしくお願いいたします。
慰謝料とは
まず、よく聞く言葉にはなりますが、そもそも慰謝料とは何でしょうか?
慰謝料とは、いわゆる精神的損害と言われるものです。
車が故障した場合や、怪我をして病院に通った場合であれば、車の修理代金や病院に通った通院費が損害として目に見えてわかります。
一方で慰謝料は、精神的損害ですので心に傷を負ったかということは、周りから見てよくわかりません。
そのため、慰謝料は金額で表すことが難しかったりもします。
ただ、裁判でのさまざまな事例の積み重ねにより、相場観みたいなものはできていますので、今回はその辺りをお話しさせていただきます
請求額と認容額の違い
今申し上げましたが裁判を行うことにより相場観が出来てきます。
まず、裁判をするためには原告が訴訟を起こさなければいけません。
裁判所はあくまでも原告が請求した範囲の中でしか判断できません。
例えば100万円を原告が請求した場合、裁判所が
「これは200万円の慰謝料が認められるんじゃないか」
と思ったとしても100万円を超えた金額は裁判所で認定されません。
高めに請求しておいた方が良いということですか?
おっしゃる通りです。
何か事件があった時に、慰謝料・損害としていくら請求しましたという報道があると思います。
あれは、あくまでも原告がそう主張しているだけです。
しかも、先ほどおっしゃったとおり高めに請求しています。
もちろん法外に高い金額を請求してしまうと裁判所に
「この原告は何を言ってるんだろう」
と思われてしまいます。
法外に高いケースを請求する場合も稀にありますが、法外ではなく、ある程度の高い金額で請求することが一般的です。
ケースによっては印紙代がかかるので安く請求して、徐々に請求額を上げていくケースもあるとお伺いましたが、そういったこともあるのでしょうか?
確かに印紙代の問題で請求額をあまり高くできないということはあります。
しかし、徐々に高く請求したとしても請求金額を変更したときに追加で印紙代が発生します。
ですので、徐々に上げていくことは基本ありません。
ただ印紙代の関係で最初からあまり高くしないということはあり得ます。
一般的に請求金額は相場よりも高いと申し上げましたが、裁判所で判決まで行ったときには、ある程度の相場観におさまります。
ただ事例により金額の振れ幅がありますので、相場はあくまでも「相場観」として、絶対こうなるものではないということを前提に各事例をご紹介できればと思います。
まず今回は①パワハラ・セクハラの慰謝料の相場についてお話させていただきます。
②離婚③いじめの問題④相隣関係(騒音・異臭)⑤インターネットにおける誹謗中傷についてはこちらの記事をご覧ください
セクハラの慰謝料、接触の有無と悪質さ、休職と退職
まずセクハラについてお話しさせていただきます。
慰謝料の相場として、千葉県弁護士会が平成14年から24年までの65件をとりまとめたものがこちらになります。

50万円以下もしくは50万円超~100万円以下というところがボリュームゾーンになります。
そして150万円超~200万円以下が2つ目のボリュームゾーンです。
200万円を超えるものはあまり多くありません。
50万円以下のものから300万円を超えるものまで事例によって結構バラツキがあるんですね。
そうですね。それでは次に、なぜ金額にこのような差が出るのかについてお話しします。
セクハラについてはこれらの要素を踏まえて慰謝料が決められます。
①どういったセクハラ行為があったのか
②セクハラ行為の悪質性やどれくらいの期間継続されたのか
③セクハラが行われたことによって被害者が休職・退職したのか
④別の精神疾患が生じたのか
⑤被害者側に何か要因があるのかないのか
特に、行為の悪質性として接触があるのかないのかは大きなポイントです。
また接触があったとして、その中でもさらに悪質なものと悪質ではないものに分けられます。
具体的にはどのような行為が悪質・悪質ではないと判断されるのでしょうか?
直接胸を触る、キスをする、といったものが悪質とみなされ、それ以外の肩を叩く、背中をパンッと叩くなどということが悪質ではない身体的接触と考えられています。
もちろん状況に応じて変わると思いますが、大きく分けるとそのようになります。
この行為の悪質性といった要素別に分けて、慰謝料の平均額をまとめたものがこちらになります。
左から順番に①接触なし②接触あり③接触あり(悪質)④1回のみ⑤2回以上で分けられています。

接触がなく言葉だけのセクハラとなると平均100万円未満となります。
一方で、接触があった場合だと200万円近くになります。
この接触があるか無いかというのは金額が分かれる一つの大きな要素です。
接触のあり・なしによって平均で2倍くらい違うんですね。
他に慰謝料の金額に影響を与える要素というとどのようなものがありますか?
セクハラの結果、休職・退職があったのかどうかも金額が変わる要素になります。
ただこれも被害者によって休職・退職するかどうかといった結果は変わってきます。
ですので、その人が退職したのか休職したのかということも大事ですが、一般的・社会通念上、退職・休職となり得るかどうかという視点で見られます。
例えば休職・退職が発生した例として、セクハラ行為により退職に至ったということで200万円を認定した例があります。
更に事実上の退職を余儀なくされたとして350万円認定されたという例もあります。
これらの金額を見てもわかるように、休職・退職という結果が発生すると慰謝料額としても高額になります。
たしかにそうですね。
接触のあり・なし、休職や退職の結果以外でも慰謝料の金額が変わってくる要因はあるんでしょうか?
はい、他にも被害者の要因があります。
被害者側がセクハラ行為を助長したのかどうか。この部分が減額要因として考えられます。
今お話したような事情をいろいろと考慮して、慰謝料の金額が決まってきます。
パワハラの慰謝料
次にパワハラについてお話させていただきます。
パワハラによる慰謝料の相場はこのようになります。

1,000万円以上のケースもあるんですね。
そうなんです。セクハラの場合はそれを苦にして自殺といった事例が無いわけでは無いと思いますが、あまり聞きません。
一方で、パワハラは自殺に繋がることもあります。
1,000万円を超えている事例については、そういった重大な結果が生じていることが一つの要因になります。
セクハラと同じように、これらの要素を踏まえて慰謝料が決められます。
①行為に悪質性があったか
②どれだけ継続されて行われたか
③被害の程度
④自殺・精神疾患を患ったのか
また、減額要因として、⑤被害者側の要素も考慮されます。
セクハラについても事例を挙げたさせていただきます。
まず名誉毀損のようなパワハラ行為を行った事例ですが、
これは400万円という慰謝料が認められました。
また、4年間パワハラ行為が継続されたと認めた事例でも、400万円の慰謝料が認められています。
一方で、同じパワハラ行為を行なった事例であっても、50万円のみの慰謝料が認められた事例もあります。
この事例については、パワハラを2回だけしか行なっていなかったとされたこともあり、他の事例よりも金額が低くなっています。
これらを見てもわかるように、やはり継続性というのは一つの要因になると思います。
冒頭で話題に出た1,000万円の事例については、自殺があり、それがパワハラ行為と因果関係があると認定されたため1,000万円の慰謝料が認められました。
自殺した場合は自殺した本人だけではなくて家族にも慰謝料が支払われる場合があります。
この事例についても、被害者に1,000万円、奥様には400万円、子供200万円、ご両親それぞれに100万円ずつの慰謝料を認めています。
先ほど減額要因として、被害者側の要素が考慮されることがあると申し上げました。
例えば同じく自殺に繋がったパワハラの事例であっても、そこまで高額な慰謝料とならなかった事例もあります。
その理由として、自殺された時にはいじめは無くなっていたこと、違う部署に異動になり問題があった部署からはすでに切り離されていたこと、医師の診断も受けて病院にも通っていたことなどが挙げられます。
そのため自殺との因果関係を考えた際に、因果関係はあるもののいじめだけが問題ではなく、被害者側にも問題があったのではないかということで、ご両親に360万円ずつの慰謝料しか認めなかったという事例もあります。
この辺りがパワハラ・セクハラの慰謝料の相場となります。
慰謝料についてまとめ
まとめると
「パワハラだからいくら」
「セクハラだからいくら」
という考えは難しいです。
結局その行為についてどのような要素があったのか。
それがどれほど繰り返されていたのか。継続されていたのか。
一方、被害者側に何か問題・落ち度がなかったのか。そういったそれぞれの事情を考慮して決定しているということです。
ありがとうございました。次回は離婚、いじめの問題、相隣関係(騒音・異臭)、インターネットにおける誹謗中傷の慰謝料の相場について教えてください。
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